異なる「色」、別の「道」をアピールする
そのポイントになるのが、①地位にこだわらず、②既得権を打破し、③世間の批判を恐れないこと、です。
そもそも二大政党制を前提とする場合には、有権者の選択は、最終的には与党か野党かの二者択一になるので、野党は、結局は与党と異なる「色」、与党とは別の「道」をアピールすればいいのです。
微妙な色の違いや道の違いをアピールする必要はなく、ただただ与党との違いをアピールすればいい。
その際に、その色と道が、国民の多くの賛同を得られるように、裏を返せば国民の多くに毛嫌いされないようにするのが政治マーケティングです。
有効な政治マーケティングの要諦は2点にまとめられます。1つは的確かつ合理的な質問に答えてもらう世論調査を行うこと。
もう1つはイタリアの五つ星運動や日本の参政党が実施したようなネットミーティングを開き、社会的な課題や政策の議論への参加を広く促すことです。
重要なのは、有権者が何に不満を抱き、何を求めているかを理解することです。
たとえば、ひと口に「与党に不満がある」といっても、「与党の政策に不満がある」と「与党の実行力に不満がある」とでは、野党がとるべき方針は異なります。
前者ならば与党とは違う政策論議を展開すること、後者ならば政策そのものは与党と似通っていても実行力が違うと訴えることで、有権者の要望に十分に応え得る政党であることをアピールできます。
このように有権者の不満や要望を把握し、的確な戦略をとっていくには、有権者動向のビッグデータの解析が必要です。それを可能にするのが、先ほど有効な政治マーケティングの要諦として挙げた2点ということです。
マーケティング巧者だった安倍政権
選挙戦では経済・教育・福祉に関する政策をアピールして支持を集め、選挙後は憲法や安全保障といった政策を推し進める。これが故・安倍晋三さんが首相時代にとった戦略です。
選挙中は国民の求める政策を前面に押し出し、選挙後は国民やメディアから不人気の政策を推進するという姿勢には、政治マーケティングの極意が現れています。
憲法第9条の改正についても、安倍さんのバランス感覚は見事でした。
自分のこだわりをフルに反映させたら「2項を削除し、日本は完全な軍事力をもつ」となるところ、それでは国民の多くに受け入れられないという判断で、「2項は据え置き、自衛隊を合憲とする規定のみ置く」という改正案をまとめました。
自身は憲法9条2項削除に強い政治的信念・信条を持っていたにもかかわらず、国民の意向を的確に汲み取り、一部の学者やメディアに猛反発を受けても、国民大多数の感覚に合わせていく。安倍さんは政治マーケティングに長けた稀有な政治家でした。
安倍政権が憲政史上最長の長期政権となった一大要因も、安倍さんが誰よりもマーケティング巧者だったことにあると見ていいでしょう。