「不安は減らさなければならない」という考え方は捨てるべし

数回の面談でAさんは、自分は4月以降の生活のマイナス面ばかりに焦点を当ててしまい、常にそのことに意識が向きすぎていたと気がつきました。不安に思うことに対し、どう対処するかという発想は言われてみれば当然なのに、全くもてていなかったようでした。

Aさんには、対処できるものは対処すること、その上でもしも不安ばかりが頭に浮かんでしまったときは、「不安は減らさなければならない」という考え方をまずは捨て、「4月以降の家族との生活での楽しみなこと=自分の中のポジティブな感情」も考えるなどしてみてはいかがでしょうかと提案しました。

夏前にAさんはもう一度産業医面談に来てくれました。家族の新生活も落ち着いてきているとのことでした。結果として、不安だった多くのことは、その場その場でなるようになって落ち着いて、今思えばそのことで眠れなくなってしまった自分が信じられないと明るくおっしゃっていた姿が印象的でした。

三つの表情の顔文字
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ポジティブな感情にフォーカスする

新年度を控え、誰もが不安な気持ちを感じるのはしょうがないことです。

不安とは、「未来」に対する「恐怖」であり、「漠然」としたものです。人間は、過去に対しては不安を感じません。過去の出来事の結果として、未来に不安を感じることはありますが、過去の出来事そのものには不安を覚えません。不安は未来に起こる“かも”しれないことであり、不安に思っていることは、まだ起こっていないことなのです。そして往々にして実際に起こらないことの方が多いものです。

また、不安というネガティブな感情は、どんなに改善しても、マイナスがゼロにしかならず、楽しい気持ちや幸せなどのポジティブな感情にはつながりません。不安に上手に対処している人は、不安の解決に頭を悩ませている時間をさっさと捨てて、よりポジティブな感情にフォーカスするという選択肢を無意識に採れている人が多くいます。

心のマイナス要素となりえる不安な気持ちは、誰もが抱えています。もちろん、「対処できること」については対処することが大切です。一方、「対処できないこと」には、考えても始まらないと気持ちを切り替えなければ、24時間不安な気持ちで過ごしていては誰でも不安に押しつぶされてしまいます。

不安に上手に対処するためには、この認識の上で不安を生じさせている根本的原因である自分の心の状態を改善することが大切です。不安な気持ちに四六時中支配される必要はありません。そのようなときには、うれしいことや充実していること、今後楽しみなことなど、ポジティブな感情に目を向けてみてください。きっと、不安な気持ちの解決になるでしょう。