業界内で知りえた情報を社会に伝えるのはNG

そのようにグレーな産業なので、一般社会とは切り離されたような形で独自の社会を形成してきた。

一般社会とAV業界の違う部分をいくつか挙げると、

・法人は金融機関を利用することができないため、知人や怪しい筋から資金を調達して起業する。
・AV業界人による、AV女優への情報提供は禁止。
・業界内で知りえた情報を社会に伝えるジャーナリズム活動の禁止。

などで、筆者も嫌な思いをした経験は無数にある。AV業界はせいぜい数百~数千人程度の狭い村なので、長年そのようなローカルルールが機能した。

女優に情報提供をしたり、知りえた情報を記事にするなど、ルール違反を犯すと最悪なケースでは暴力的な制裁対象となった。

制裁について、ひとつ例え話をしよう。

ギャラについて事務所に不信を感じている女優がいたとする。彼女に対して撮影スタッフが、「君の所属事務所は、女優に適正な配分をしていない。他の事務所の女優はもっともらっているよ」と情報提供したとする。立派なルール違反である。

そうすると情報提供を受けた女優を管理するプロダクションとトラブルになる。撮影スタッフは呼び出されて、謝罪で済まなかったら、暴行や恐喝被害に発展しかねない。

被害に遭遇しても、撮影スタッフは警察や司法に頼ることは許されない。仮に警察や司法に頼ったとなると、業界関係者が総出となって個人の仕事を干すようなことが行なわれる。

業界内のトラブルでどんな被害に遭っても、被害者は泣き寝入りになることが業界の常識となっていた。

2018年に強い意思の下で行なわれた「適正AV」の取り組みでかなりの改善がなされたが、長い間、アダルトビデオ業界はきわめて異常な産業だったのだ。

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写真=iStock.com/Dragos Condrea
※写真はイメージです

2460万円の違約金で発覚した「AV出演強要問題」

異常だったAV業界にメスが入ったのは、AV新法の立法にも関わった人権団体の告発があったからだ。

2015年、AV出演を拒否した女子大生がプロダクションに2460万円の違約金を請求された訴訟の地裁判決が出た。女子大生が人権団体に駆け込んだことで出演強要問題が発覚。

その事件が発端となって、被害経験のある元AV女優たちが続々と被害を告発し、ローカルルールで隠し続けてきたAV業界の闇が続々と暴かれてしまった。

そのとき、AV業界はどんなに問題が大きくなっても沈黙した。

出演強要問題に対する批判は高まり続け、ピークとなった2017年4月26日には、渋谷駅前で男女共同参画担当大臣、渋谷区長、渋谷署長、警視庁上層部など、錚々たるメンツが参加して出演強要の被害根絶を訴える街頭パレードが行なわれている。

政治、行政、警察、市民が一体となってAV業界に抗議の声をあげるパレードを見学して、筆者はあまりの深刻な事態に衝撃を受けた。

しかし、抗議されている当のAV業界はそのような社会の声には興味がなく、現状維持のまま撮影と販売を継続した。狭い村で一般社会から隔離されているような産業なので、業界人は一般社会の動きに対する反応が極めて鈍かった。

筆者は2016年後半~翌年春にかけて事態が極めて深刻であることを何人もの関係者に伝えたが、ほぼ全員、興味がないという態度だった。