「高校生AV解禁」というパワーワード

今回のAV新法は出演強要問題に携わっていた支援者団体と人権団体が「高校生AV解禁」というパワーワードで危険性を訴え、危機感を覚えた塩村あやか議員ら国会議員たちが動き出したことが法制化のきっかけとなっている。

しかし、現在の適正AV業界の流れを汲むAV業界では、40年前の創成期から高校生の起用は厳しく自主規制していた。実際のところ、成人年齢の引き下げが行なわれても、高校生AV女優が誕生する可能性は考えられなかった。

民法改正をキッカケに口頭で勧告する程度で、いままで通りに自主規制は継続され、高校生AV女優の誕生はありえなかったと思われる。

高校生AV女優の誕生があるとすれば、趣味で「ハメ撮り」撮影をする同人AVの撮影者や無修正映像を販売する違法業者が考えられたが、AV業界の事情を知らない政治家は適正AV、同人AV、違法業者すべてをひっくるめてAV新法の規制対象にした。

すると、強い自主規制を課している適正AV関係者は、同人AVや違法業者と同等に扱われることに不満をあらわし、露骨に攻撃する適正AV関係者も現れた。同じAV業界の中でも適正AV対同人AVという対立が生まれて、混乱はさらに深まっていった。

スマートフォンを持つ10代の女の子
写真=iStock.com/SetsukoN
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次にAV新法の背景について要点をまとめる。

①AV新法の突然の制定には、2016年の出演強要問題という伏線がある。出演強要は適正AVの流れを汲んだAV業界が起こしたことである。
②適正AVでは歴史的に、高校生AV女優は自主規制している。高校生AV女優という視点では法規制の必要はなく、口頭で勧告する程度で自主規制を継続した。
③AV新法賛成派、反対派ともに適正AVの取り組みは認めていない。当事者やファンがアピールしているだけ、という現状。
④AV新法では適正AV、同人AV、無修正を販売する違法業者を包括してAV業界として法規制の対象とした。

成立まであまりに早かったことから、AV新法について多くの人々は急に降って湧いたような法規制と思っている。現役AV女優たちが主張するように当事者の意見を聞かないまま、早急に法律を制定したのは事実だ。

女優への出演強要は日常茶飯事

しかし、2017年12月には自民党と公明党の議員を中心に「性暴力のない社会を目指す議員連盟」(通称ワンツー議連)が立ち上げられており、AV業界に対する法規制は各政党で検討されていた。

そもそも「出演強要問題」という伏線があったので、その結末は十分に予測できたはずだ。

2016年3月に明らかになったAV出演強要問題とは、プロダクションによる普通の芸能事務所を装った虚偽のスカウト、強引な契約、違約金の請求という脅しなど、出演を強要された女性の被害や人権侵害が人権団体に指摘されたことから始まった。

実際に女優に対する出演強要は、2011年あたりまで日常茶飯事で起こっていたことで、AV業界人や筆者を含む業界に近い者は全員その実態を知っている。

しかし、知ってはいても公にする者はいなかった。それは、AV業界全体が長年にわたって暴力で支配されていたことが理由だ。