遅すぎた「適正AV」の取り組み
2017年には、プロダクション関係者を中心に100人を超えるAV関係者が逮捕・摘発される前代未聞の事態が起きた。プロダクション関係者の容疑は、アダルトビデオという有害業務に労働者を派遣した、という労働者派遣法違反だった。
そして、この段階でようやくAV業界は重い腰をあげる。2018年に出演被害者を出さないことを目的に第三者で組織されたAV人権倫理機構が立ち上がり、流通、適正メーカー、プロダクションが一体となって「適正AV」という枠組みを作った。
適正AVの取り組みは功を奏し、それまで内部の者にとっては半ば常識だった出演被害の話は、これを境にほとんど聞くことはなくなった。
しかし、出演強要が社会問題になってすでに2年が経ち、その間に業界関係者が続々と逮捕・摘発されたことで、あまりにも悪質なAV業界の実態が可視化された。
そのあとに行なわれた適正AVの取り組みが、規制を検討する政党や国会議員に届くことはなかった。業界改善のために適正AVの取り組みが進められている最中にも、アダルトビデオに対する法規制の必要性は各政党で議論された。
そのような状況下で2022年4月、民法の成人年齢が18歳に引き下げられることが契機となり、急展開となった。
違反すれば法人は1億円以下の罰金
「AV被害防止・救済法」(AV新法)の内容も説明しておこう。新法は40年間の歴史あるアダルトビデオ産業の継続に黄信号が灯る、あまりに厳しい内容だった。
新法ではAVメーカーに、
・出演契約締結時の契約書交付と、内容説明の義務化
・契約から1カ月間の撮影禁止
・すべての撮影終了から4カ月間の公表禁止
が科せられ、出演者には、
・年齢性別を問わず、公表から1年間は無条件に契約を解除することができる
・意に反する性行為を拒絶することができる
・出演者の契約解除時に配信停止、商品を回収できる
権利が与えられた。違反すれば3年以下の懲役、または300万円以下の罰金。法人には1億円以下の罰金が科せられる。
女性に対する出演強要問題と、高校生AV解禁という危機感から口火が切られた議員立法だったが、蓋をあければ「年齢性別を問わない」すべてのアダルトビデオの出演者に関わる法律となった。
新法によって具体的に何が起こるかというと、1カ月前の契約義務によって撮影に代役がきかなくなり、撮影総数は減る。必然的に出演者の仕事は減少する。
また、4カ月の公表禁止によって、資金力のない中小メーカーの資金繰りが悪化して廃業、倒産となる。出演者の年齢性別を問わない1年間の無条件契約解除によって、信頼関係のない新人女優、新人男優が使えないことが予想された。
AV業界はパニックになって、決まっていた撮影は続々中止。AV女優を筆頭に現場関係者は失業状態となった。
突然の失業状態に騒然となったAV女優たちはSNSで生活の危機を訴え、女優たちの危機を憂いた男性ファンたちが立法に関係した者や反対派を攻撃、反対派のフェミニストたちにも数々の暴言を吐いて荒れた状態が続いている。
新法賛成派は適正AVの取り組みをスルーしたまま法規制を実現し、反対派はイデオロギーが偏っていて、現役AV女優は両派と激しく対立しながら適正AVの取り組みを訴える三つ巴の状態となっている。
AV業界や新法の周辺でいったい何が起こっているのか、分かってもらえただろうか。