AV業界の中枢が沈黙する理由

いまの適正AVへの大逆風を理解するためには、かつての閉塞へいそくしていた業界の体質や産業の構造を知る必要がある。

本質的な原因は、AV業界大手のトップや協会の幹部が、自ら起こした出演強要問題の火消しをしないまま「適正AV」を謳っているため、そもそもAV業界が社会に認められていない状態にあるからだ。

かつて、AV業界は流通、審査団体に加盟するメーカー、制作会社、撮影スタッフ、プロダクション、男優、そして、当時の筆者のような業界専門誌の関係者までがAV業界人とされていた。生業としてアダルトビデオに関わっていた人々である。

一方、業界にとってAV女優は商品という意識なので、業界人の枠組みには入ってこない。次々に入荷される女性という商品をまわして利益をあげるという考え方で、AV女優に対する人権意識は希薄だった。

閉塞するAV業界は、昔から「狭い村」「AV村」などと呼ばれていた。アダルトビデオは、女優の発掘から販売までの過程で様々な法律に関わる。

しかし、所々にグレーな部分があり、法的な問題を突きつけられると説明ができないので、AV業界のトップにいる人々は矢面に立ちたがらない。出演強要問題は社会問題にまで発展したが、AV業界のトップにいる人物たちは一切表に出ることはなかった。

秋葉原のメイドカフェを訪ねるように通行人に呼びかける少女
写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
※写真はイメージです

AV業界のグレーゾーンと綱渡りのような女優発掘

アダルトビデオの法律的にグレーな部分を説明していこう。

まず女優の発掘はスカウトマンが担うことが多く、路上でのスカウトは都道府県の迷惑防止条例違反となる。

スカウトマンや応募によって発掘された女性は、プロダクションに所属し、メーカーや制作会社の撮影現場に派遣されるが、アダルトビデオの撮影は有害業務とされるので、ここでも労働者派遣法違反、職業安定法違反となる可能性がある。

そして、撮影内容によっては、刑法174条「公然わいせつ罪」、同177条「強制性交等罪」となりかねない。

本番撮影が不特定多数との性行為と解釈されると、売春防止法違反の可能性も出てくる。メーカーは撮影された性行為の映像を、刑法175条「わいせつ物頒布等罪」にならないように修正して第三者による審査を通してから発売する。

しかし、「わいせつ」の定義は曖昧で、どの段階から刑法175条に該当するのか分からない。

実際に2007年には警察も関わりながらわいせつを審査する日本ビデオ倫理協会が警視庁に強制捜査を受けて、翌年には審査部の統括部長が逮捕されている。

このようにアダルトビデオは様々な法律の脅威に晒されながら、綱渡りのような発掘、撮影、販売が行なわれてきたのだ。