相次ぐ撤退のワケ

87年、『週刊朝日』が東大合格報道から撤退することを表明した。「日刊スポーツ」(2月9日)が大きく報道している。以下、同紙の記事から関係者の話を引用しよう。まずは、『週刊朝日』から。

「投下するエネルギーがあまりにも膨大なんですね。(略)最初のころこそ、合格者を100%割り出すことは、朝日の取材力を示すことでもあると考えたが、100%割り出しができ、取材として頂点に達したと判断した。入試制度も変わるし、このへんでエネルギーをもっと別のものに注ごうということです。

小林哲夫『改訂版 東大合格高校盛衰史』(光文社新書)
小林哲夫『改訂版 東大合格高校盛衰史』(光文社新書)

(略)命がけでこのネタを取ろうという取材者みょうりのある企画でないから、この仕事をしたいという志望者は編集部にはいなかった。(略)やめてどうなるかは分からないが、あとは読者の判断にお任せしたい。(部数減となっても)復活はないですね」(『週刊朝日』編集長)。

『週刊読売』は前年から合格者氏名は技術的に限界を感じてやめたこともあり、弱気の姿勢である。「労多くして、という感じがいつもある企画ですからね。うちもやめようかな」(『週刊読売』編集部)。90年代に入って、同誌は予告どおり、掲載をやめてしまう。

東大は『週刊朝日』の撤退を喜んだ。「各週刊誌さんがコンピューターまで使って苦労して割り出されたり苦々しい思いがしていた。いいじゃないですか。ほかもやめてもらいたい」。

今からでは考えられない「名前割り」

『週刊朝日』が撤退した理由=「投下するエネルギーがあまりにも膨大」、また『週刊読売』の弱気な「労多くして」作業内容は、具体的にはどのようなものだろうか。

週刊誌、予備校の関係者、当時の学生アルバイトの話によれば、現在では個人情報保護の関係でおよそ実現不可能な方法で出身校をさぐりあてたのである。

東大受験生の活用する予備校、通信添削会社、そして高校から東大合格の可能性が高い受験生をリストアップしてもらう。模擬試験成績上位者、通信添削の受講者、校内での成績優秀者などである。

A予備校、Bゼミナール、C塾、D通信添削、X高校からのデータを照合して東大受験予定者を割り出して、高校別のリストを作るわけだ。

東大には一次試験があり、二次試験の1カ月前に合格者が発表される。受験予定者リストと一次試験合格者をすり合わせると、あらかた、合格予定者が浮かび上がる。