3カ月間にわたって1200人を動員

開成、灘、筑波大学附属駒場、県立浦和、県立千葉などの現役、1浪組の東大合格者は、事前の情報からすぐに「当確」が打てる。

しかし、はるか昔に高校を卒業したり、模試を受験しなかったりする人は、受験予定者リストには登場しない。年配の塾講師がこっそり受けて、入試問題研究や進路指導資料づくりなどの仕事に役立たせる。こういう受験生までフォローできない。開校以来、というような東大合格実績がない高校も情報が足りない。

また、模試では実名、実高校名が記されていないケースもある。仮面浪人であることをまわりに知られたくない受験生は、模試の上位成績者欄の所属・出身校には、進学実績がない高校や、「検定」を記入する。これは特に桜蔭、女子学院など女子校出身者に見られた。

さらに、「田中一郎」「鈴木明」のようなよくある氏名は、同姓同名者が出てくる可能性があり、判断がむずかしい。

ビジネスマンのダイヤルの電話、ヴィンテージカラートーン効果
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こうした、「身元不明者」は高校、あるいは受験生に直接電話をして、東大を受験したかどうかを確かめるわけだ。年によって異なるが、「身元不明者」は100人以上出てくる。しかし、その多くは、二次試験で落ちてしまう。手がかりがまったくない場合、勘に頼るしかない。これはと見当をつけた地域に問い合わせて、徹底的に追い求める。

『サンデー毎日』編集長をつとめた福永平和氏がこう記している。「受験者情報のインプットは1年がかり。デスク1人を専任にし、アルバイトも常時2人いる。前年暮れからは、アルバイトや編集部員の応援を繰り出し、最盛期の2月からはアルバイトも80人以上に膨れ上がる。発表の直前になると、大会議室に貸しフトンを持ち込んで2、3日は完全徹夜ということに」(『プレジデント』、92年10月号)。

『週刊朝日』も3カ月間にわたって延べ1200人を動員して体育館のような広いところで作業していた。

「息子は死亡しました」と親がウソをついたワケ

こうした作業を関係者のあいだでは「名前割り」と呼んでいた。その過程ではさまざまなドラマがあった。

週刊誌記者からの取材で初めて合格を知った学生がいた。電話の向こうでうれしさのあまり泣き出してしまう。まわりから大きな歓声が聞こえる。氏名の確認で合格できなかった受験生と接したとき、家族が出てきて「息子は死亡しました。いま、お通夜の最中です」といわれてしまう。本人は健在だが、不合格を知られたくなかった親心らしい。

東大の一次試験合格者に載った私立高校の女子生徒に確認したところ、東大受験を頑として認めない。高校も「あり得ない」と否定する。模試などで高校が特定でき、めずらしい氏名だったので、記者は間違いないと確信するが、東大受験を公にできない事情があった。彼女は指定校推薦で早稲田大学への入学が決定していたのである。バレたら、入学が取り消されてしまい、早稲田の指定校枠が外されるからだ。