30代で認知症だと冗談と思われる

当時、若年性アルツハイマー病は進行が速いと思われていました。丹野さんも窓口に相談へ行くと、いずれ介護が必要になるからと介護保険の説明ばかりされたと話していました。

2022年の現在も、丹野さんはもとの会社に所属し、講演をして歩き、ラジオやテレビに出ています。

認知症は少しずつ進行しているとのことです。それでも工夫して生活しています。

会社に通うときに、地下鉄の乗り継ぎで自分の居場所がわからなくなってしまうことがありました。人に道を聞くと怪訝けげんな顔をされます。

忘れられた傘を指摘するビジネスマン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

30代の男性が「出口がわかりません」と言っても冗談だと思われるのでしょう。「新手のナンパですか」と返されたこともあったそうです。

そこで、丹野さんは「自分は若年性のアルツハイマーを患っています」というカードをつくって見せる方法を考えました。それを見せると、みなさん親切に教えてくれるそうです。

70代を超えた老人は、丹野さんほどの苦労はしないでもボケを演じれば、たいていの人は親切にしてくれます。相手も「お年寄りに親切にできた」と満足できるでしょう。

「人になど頼りたくない」「人に声を掛けるのは恥ずかしい」と思う方もいるでしょうが、老いたら一歩ひいて、ありがたく親切を受け、感謝する姿を見せることも次世代につなぐ「ボケ力」だと思います。

ボケたら、メモ魔になろう

丹野さんだけでなく、認知症になった当事者の方が本を書いたり、マスコミで発言されたりしています。

そこには、認知症になったからすべてがダメになるわけではないというメッセージがあります。

若い認知症当事者の方たちも物忘れがひどくなってきたときに、それぞれ工夫しています。それは、ノートやカレンダー、スマホ機能を大いに利用するということです。

この方法は、高齢者のボケ力を鍛えるためにも参考になると思うので、認知症当事者の方たちの本も読んでみるといいでしょう。

認知症でも活躍されているみなさんを見ると、物忘れはけっこう進行しています。いま会った人との会話や顔を忘れたり、講演会でホテルに泊まれば自分の部屋を覚えたりすることができません。

それでも、彼らは人前で自分の考えを話します。質問にも答えます。

物忘れがひどくなり、アルツハイマー型認知症と診断されても、すべての機能がダウンしているわけではないのです。ものを考え、アウトプットすることができます。

ただ、物忘れするようになったら、工夫が必要です。先ほどの丹野さんにしても考えたことやアイデアはすぐにメモしていると思います。そうして、講演会のときはじっくり自分で原稿をつくっています。

私も最近では、いいアイデアが出てもすぐにメモしないと、「あれ、何かいいこと思いついたのにな」と忘れてしまうことがあります。

ネットで見た研究が参考になると思い、あとで読もうと思ったら、「お気に入り」に入れておくか、名前をメモしていないと思い出せないこともあります。

「夜にネットで読もう」と自分を信じて覚えているつもりが、その間にたくさんの雑事をこなしていると、「ネットで読もう」と思ったことさえ忘れてしまいます。あなたの日常にもそういうことは多くなったのではないでしょうか。