ストーカー対策に科学的知見を役立ててほしい
その後、ローゼンフェルドらは、対象を109人に拡大し、治療期間も12カ月としたうえで、ストーカー治療のために特化した認知行動療法を用いたランダム化比較試験を実施している。これはより厳密な効果の評価ができる研究手法であるが、それによっても一定の効果が見いだされている。
別の例として、イギリスでは医療、福祉、刑事司法機関、被害者支援サービスが共同して実施する他機関介入プログラム(Multi-Agency Stalking Intervention Programme:MASIP)が、複数の地域で試験的に導入されている。そこで用いられる心理療法としては、認知行動療法が柱となっている。効果に関しては、まだ初期的な質的研究しかないので、確かなことは言えないが、現時点では有望な効果が報告されている。
また、オーストラリアでは、ストーカーを含む問題行動を起こした人々に対して、アセスメントや治療を専門的に実施する専門機関の必要性が高まったことから、州立の法医学精神保健研究所が設立された。ここでも、警察、裁判所、矯正施設、民間の医療機関などが協力し、主に性犯罪、ストーカー、粗暴犯罪者などの治療に当たっている。
このような海外での先駆的取り組みを見て、現時点での私の提言は以下の4つである。
1.ストーカーを含む性犯罪や粗暴犯罪の専門家を早急に育成する
2.わが国で使用可能なリスクアセスメントのツールや治療プログラムを開発する
3.専門的な治療機関を設立し、関連機関との協働のうえで、リスクの高いストーカーの治療に当たる
4.ストーカーの予防や治療に関する研究を充実させる
3は何も新しい機関を設立する必要はなく、既存の公的医療機関などを活用することも可能である。しかしそのためには、何をおいても、研究と専門家の育成が急務である。
不幸な事件が起こった後、同じ悲劇を繰り返さないようにするには、そこから学ぶべきことをしっかりと学び、今後の対策を充実させることが何よりも大切であることは言うまでもない。
被害者のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、残された遺族の方々への適切なケアと補償を切に望みたい。