デフレを恐れる理由

そもそも景気対策とは日銀だけの責任ではない。むしろ政府にこそ景気対策が求められるはずだ。

黒田総裁は異次元の金融緩和を維持してきたが、その間も政府は2度にわたる消費増税を実施し、財政政策サイドでブレーキを踏み、結果として日本経済を停滞させてしまった。

岸田政権は現時点で増税を実施してはいないが、報じられるのは増税案ばかりだ。

企業は主に海外起因の物価上昇圧力に晒され、原材料価格や電気代の高騰に苦しんでいる。そのような中、多くの企業では物価上昇を上回る賃上げは難しいだろう。

そうなると、家計は自己防衛として節約をするようになる。

人々の財布のひもが固くなると、企業の売上高は増えなくなる。すると利益を捻出するために更に人件費を下げる。そうなれば、再び家計は節約に走る。

このような負の連鎖、いわゆるデフレスパイラルに突入する危険性がある。

政府・日銀はアクセルを踏むべき

このような話をすると、「人々はいま物価上昇に苦しんでいるのだから、デフレになり物価が下がるなら歓迎だ」という意見をもらうことがある。

たしかに、この世があと数週間で終わるというのであれば、デフレを歓迎すべきだろう。

しかし、実際には経済活動は今後もずっと続くので、物価下落はその後の賃金下落を招くため、デフレを喜ぶことはできない。

デフレになると物価が下がる以上に労働者が受け取る報酬が下がる。これは、不名誉ながら我が国が世界において初めて実証した事実だ。

筆者がデフレを恐れる理由はここにある。

給料が下がると、職を失う人や命を落とす人も増えてしまう。

デフレスパイラルは一度突入すると脱却が非常に難しい。なぜなら、デフレとは企業も家計も与えられた条件の下で合理的に動いた結果として発生する現象だからだ。

これを合成の誤謬ごびゅうという。

この合成の誤謬を脱却するには、残る国内経済の主体である政府・日銀が適切な政策をとる必要がある。

新しい日銀体制と政府は同じ方向を見て、アクセルを踏み日本経済を再浮上させることを期待する。

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