物盗られ妄想のターゲットになりやすい人の特徴

オンラインで初めて平井さん姉妹と顔を合わせたのだが、確かに妹さんを見ると、肌艶が良くなかったり、髪の毛がボサボサだったりと、画面越しではあるが、日頃の介護の疲れが見て取れる。下手すると5歳離れたお姉さんの方が、若く見られるのではないだろうか。

「母は、昔から私のことが嫌いだったんです。だから言いがかりばかりつけてくるんでしょうね。週に1度来てくれるヘルパーさんに対しては、外面の良さを発揮して、ニコニコするばかりで全く疑いもしません。本当に、私に対してだけそういったいやがらせをしてくるんです」と言いながら、妹さんは必死に涙を堪えている様子だった。

私は少し迷ったが、物盗られ妄想のターゲットになりやすい人の特徴を正直に話すことにした。

「実は、認知症の方がそうやって誰かのせいにしてしまうときというのは、それが間違っていたときに許してくれる人にしか疑いをかけないものなんです。裏を返せば、お母さんは、あなたのことをとても大切に思っているんですよ」と切り出したのだが、妹さんはすぐには私の言葉の意味を飲み込めない様子だった。

言葉の裏側に隠れている思い

「つまりですね、私のものを盗ったでしょという言葉の裏側には、『間違っていたらごめんね』という意味が含まれているんです。つまり、あなたのことをとても信頼している、とお母さんは伝えたいんですよ」と、混乱している妹さんに理解してもらえるよう、なるべく分かりやすい言葉を選んで伝えてみた。「だから週に1度しか来ないヘルパーさんよりも、毎日近くで介護をしてくれている妹さんを信頼するのは、お母さんにとって自然なことなんですよね」と口にしたその瞬間、妹さんの瞳のダムは、ついに決壊してしまった。

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写真=iStock.com/Chaay_Tee
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私は、妹さんにその涙の理由を尋ねてみた。

「いつも母は、お姉ちゃんばかり可愛がっていたんです。フランスで色んな商品を見つけたり、向こうの企業との橋渡しをしたり、そんなふうに頑張っているお姉ちゃんを見て、『お姉ちゃんに比べて、あんたほんまに何もできへん子やね』と文句ばかり言われていたんです。二人きりの姉妹ですので、母には昔から何かにつけてお姉ちゃんと比べられていました」と、こぼれ落ちる涙を拭うことも忘れて、これまでのことを教えてくれた。