筋肉を鍛えれば人生が変わる
人と会わずに仕事ができる清掃の仕事は性に合っていたらしく、気が付けば29歳になっていた。清掃機器の使い方も覚え、風俗店の清掃も任されるようになっていた。
「それでも、コミュ障(コミュニケーションがうまくできないこと。この場合は対人恐怖が強いこと)だから『社員になれ』とは言われない。そんなとき、僕をいじめた子に子供が生まれたと知ったんです。そいつは親の水道設備会社を継いで、そこそこいい生活をしている。
自分ばかりが不幸だと思ったときに、『筋肉を鍛えれば人生が変わる!』みたいな記事を読み、自己流で筋トレを始めました」
毎朝、腕立て伏せと腹筋を100回以上行うと、1週間で変化が出た。
「動画を観ながらやっていたのですが、体がいい感じに変わってくるんです。腰痛が緩和したり、気持ちが前向きになったりして、『あ、オレ変わった』みたいな感じ」
すべての栄養はサプリメントで取れる
自分に変化があると、筋トレにのめり込んでいく。動画を観て、自己流で行うことに限界を感じ、筋トレで有名なジムにも通った。その費用は約50万円。貯金のすべてをつぎ込んだ。
「そこそこかわいいトレーナーがついて、栄養アドバイスを受けるんですが、プロテインとか低糖質のチョコレートケーキとか、サプリメントをすすめてきます。女性と話す機会などほとんどないので、舞い上がってしまって10万円分くらい買いました」
筋トレを本格的に始めるとお金がかかる。食べるものは鶏の胸肉や牛の赤身肉など、高タンパク低カロリーな食品が中心になる。
「それまで、コンビニ飯や半額になった弁当、家にある僕用の米(両親は成績優秀な妹用の食材は“いいもの”を別途購入していた)を食べていればよかったんですが、そんなものを食べていたら筋肉は育たないし、体は絞れない」
そこから特異な食生活が始まる。午前中にジョギングの後に筋トレをしてから、5個の生卵と疲労回復のビタミンEのサプリメントを摂取。そのほかに、マルチビタミンやビタミンC、鉄などのサプリメントを飲む。
その後、昼寝をして、家事を済ませてからジムに行き、2時間トレーニング。豆腐パックをスプーンですくって食べ、再び大量のサプリメントを飲み、清掃の仕事に行く。
「豆腐パックは赤身肉ステーキになることもありましたが、変わりませんね。それで2カ月もしないうちに、体重は70キロ台まで落ちました」
摂取するタンパク質は毎食200gを目指した。『日本食品標準成分表』(5訂)を見ると、木綿豆腐100gあたりのタンパク質は6.6g。豆腐1丁は約300gなので、タンパク質を取るためには、12丁以上を食べなくてはならない。
「だから、プロテインドリンクを飲むんです。プロテインに加えて、豆腐も食べる。筋トレを知ると、すべての栄養はサプリメントで取れるとわかる。でも、食事は娯楽の一環であり、咀嚼力を落とさないために必要だと思い食べていました」