人間はみな、ありのままの姿で生きるべきか。広告関連会社に勤務する34歳の女性は、容姿コンプレックスから、美容整形を繰り返している。誰もが平等という今の教育に対しては、「差別感情に蓋をし続けるといずれ爆発する」と危機感を抱いているという。ライターで編集者の沢木文さんが書いた『沼にはまる人々』(ポプラ新書)より紹介しよう――。(第7回)

※本稿は、沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

抗しわ手術
写真=iStock.com/Elena Safonova
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いじめ続けられた10代とブラック企業勤務

容姿にまつわる沼において、いじめの経験が背景にあることが多い。人に会う機会が極端に減ったときに、美容整形手術を受ける人が増えた。それは、ダウンタイム(施術後に回復するまでの時間)に、誰とも会わなくて済むからだ。

春香さん(仮名・34歳)は、広告関連会社に勤務している。都内の中堅大学卒業後、6社の転職を経て、今の会社に落ち着いたという。

「ブラック企業ばかりでした。今みたいにコンプライアンスなどと言い始めたのはここ数年。それに、フェミニズムとか男女同権とか言い出したのもここ最近。それも大手限定です。私が勤務している中小企業はガチでブラックですよ」

春香さんはほっそりとしていて、目が大きい。くっきりとしているアーモンドアイであることがわかるが、やはり不自然であることは否めない。マスクをしているとはいえ、表情がどこかしっくりこないのだ。

「日本は美容整形にネガティブなイメージがありますよね。『ありのままが一番』と言いながら、女性をブスなどと平気で言う。そして、アイドル風の容姿の人以外は、ブスとひとくくりにされます。私、小学校・中学校と太っていて、すごくいじめられたんです」

そのいじめの内容は壮絶だった。給食に異物を入れられたり、トイレの上から牛乳交じりの汚水をかけられたこともあったという。

「これ以上は話しません。あまりにも暴力的なので、引きますよ。地方の学校って、めちゃくちゃ閉鎖的な集団なんです。そこで人間以下の認定をされてしまうと、『ブスなブタには何をしてもいい』ってことになるんです」

体育の時間でペアになった相手に消毒液をこれ見よがしにかけられた。修学旅行は集団行動班の人に巻かれてしまい、1人でホテルの非常階段に座っていた。

「だから、私のような人間にとって、コロナ禍ってホントに素晴らしいんですよ。だって行事をしなくてもいい。修学旅行に行かなくてもいい。部活をやらなくてもいいなんて、最高じゃないですか。

世の中で発言する人は陽キャ(明るいキャラクター)の人ばかり。マスコミにいる人も、SNSで発言する人も生まれながらの勝者ですから」