※本稿は、こかじさら『寿命が尽きるか、金が尽きるか、それが問題だ』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
89歳の叔父の無免許運転が発覚
いつも通り朝のジョギングを終え、シャワーを浴び、仕事に取り掛かった矢先の午前10時過ぎ、登録されていない電話番号から着信がある。誰だろう……? 首を傾げながら「もしもし」と応答すると、
「突然すみません。○○貞吉さんの姪御さんでしょうか?」
聞き慣れない声が聞こえてくる。
「はい、そうですけど」
「私、○○保険代理店のSという者ですけど」
保険代理店……。嫌な予感に心臓がドキリと音を立てた。子どものいない89歳の叔父叔母夫婦。「そろそろ運転免許証を返納させたほうがいいよね」兄夫婦とそんな話をしたばかりだったからだ。
「今、C銀行の駐車場にいるんですけど、ウチで保険契約しているお客様が駐車中の貞吉さんの車に接触したということで。駆けつけると同時に警察に連絡して、来てもらったんですが……」
状況から察すると、叔父がぶつけたというわけではなさそうなのだが……。その人の口ぶりから、事件勃発の気配を感じ取る。
警察沙汰にも当の本人はまるで他人事
「それで、叔父は……?」
「はい、実はすでに失効してしまっている運転免許証で運転していたようで」
えっ……、えーっ! 思わず目が点になった。
「もしかして、免許証の更新をせずに乗り続けていたってことですか?」
「はい。ただ、何を聞いても、『どうだったかなあ……』としか答えが返ってきませんし、叔母様も、『私は何もわからない』とおっしゃってて。私どもも警察の方も困ってしまいまして……」
ひえー! 心の中で叫ぶと、
「C銀行の駐車場ですね。すぐに伺います」
仕事を中断して現場へ急行する。
接触した車のほうは、かすった程度なので大事にしないということで(そもそも無免許で運転していたので、それどころではないのだが)、双方納得の上で決着。叔父と叔母を一旦自宅へ送り届け、その後、C銀行の駐車場から自分の車を引き上げ、二人を連れて警察署に向かう。
「更新手続きのハガキが来てるはずだけど、手続きしなかったの?」
「ん……、どうだったかなあ?」
「無免許で人身事故を起こしたら保険も利かないんだよ」
「そうかあ……」
何を訊いてもまともな答えは返ってこない。警察での手続き中も、他人事のようにただぼんやりとしているかと思うと、「トイレに行ってくる」と言って、突然立ち上がる。