老父母に加え叔父夫婦の面倒まで見る羽目に
「この口座、残金が3000円しかないから。このままだと今月の引き落としができなくて、電気も水道も止まっちゃうよ」
叔父と叔母に通帳の残金を示し説明するが、叔父は「おー、そうか」と他人事のようだし、叔母は「そういうことは叔母さんわからないから」と、事の重大性が全くわかっていない。
「キャッシュカードを貸してくれれば、そこのATMで大至急振り込んでくるけど」
早いほうがいいだろうと思ったのだが、
「キャッシュカード……? そんなもん持ってねーよ」
驚くような答えが返ってくる。
「銀行の窓口に行かなくてもお金を下ろしたり振り込んだりできるカードのことだけど、持ってないってことはないよね」
念のため確認する。
「叔父さんも叔母さんも、そういうものは使い方がわからないから持ってないのよ」
「ってことは、いつも銀行や郵便局の窓口に行って下ろしてたの?」
「そうだよ」
「すぐそこのATMで下ろせるのに」
今どき、キャッシュカードを持っていない人がいるとは……。
驚きを通り越して呆気にとられる。と同時に、年金の支給日、高齢者でごった返している銀行や郵便局の窓口を思い浮かべ、そういうことかとため息が漏れる。いやいや、そんなのんきなことを言っている場合ではない。車を廃車にしたということは、今後この二人がお金を引き出す際には、私が銀行の窓口に連れて行かなければならないということだ。老父母だけでもてんてこ舞いだというのに、さらにこの二人の面倒を見なければならないのか。ため息どころか、頭のてっぺんから火が噴き出しそうになる。
使っていない携帯電話の料金まで支払っていた
この二人、本人が銀行の窓口へ行けなくなったとき、長期の入院や施設への入居などでまとまった現金が必要になったとき、本人以外が銀行の窓口へ赴いてもお金が下ろせないということを知っているのだろうか。そういう状況になったとき、どうするつもりだったのだろうか……。たぶん、何も考えていないのだろうが、状況を知ってしまった以上、このまま放っておくわけにはいかない。
「月曜日の朝一番で銀行に行って、こっちの引き落とし専用の口座に入金して。二人ともキャッシュカードを作るからね。いい? わかった?」
キャッシュカードを預かっておけば、いざというとき、二人に代わってお金を引き出すことはできる。この世の中に、叔父や叔母の入院費や施設の費用を立て替えられる人がどれほどいるのだろうか。少なくとも私にはそんな余裕はないし、するつもりもない。それにしても、残金が3000円になっても気づかないとは……。何かが引っかかったのだろう。もう一度叔父の通帳を見てみると、毎月携帯電話の料金が引き落とされている。
「携帯電話の料金が毎月引き落とされてるけど、叔父さん、携帯持ってるの? 叔父さんが携帯電話使ってるとこ見たことないけど」
「携帯かあ。持ってたような気がするけど、どこにあるかわかんねーよ」
気がするって、どういうこと?
「何年か前に、知ってる人に勧められて作ったのよ。でも、使い方がわからないからって一度も使ってないと思うよ」
叔母もまるで他人事のようだ。
「ってことは、使ってもいないのに料金を払い続けてたってこと?」
当てにならない叔父叔母の代わりに、死蔵品で溢れかえっている茶の間や、職人の叔父がかつて使っていた作業場を捜索すること約30分。箱に入ったままの携帯電話を工具箱の中から発見する。