ウォール街を凌駕するロンドンのシティ
現在、世界はマネーゲームの弊害にしばしば悩まされている。
ITバブルの崩壊や、リーマン・ショックなどで、幾度もわけのわからない不況に見舞われ、ヘッジ・ファンドの無茶な買収劇により、関係企業や従業員は右往左往させられる。
このマネーゲームの総本山といえば、我々は、ニューヨークのウォール街を真っ先に思い浮かべる。
しかし、マネーゲームの本当の総本山はウォール街ではない。
確かに、ニューヨークのウォール街は、金融取引量自体は世界一である。が、ウォール街の場合、その大半は国内の取引なのである。アメリカという市場がそれだけ大きいということだ。
マネーゲームの本当の総本山は、ロンドンのシティなのである。
世界経済全体のシェアを見てみれば、ロンドンのシティのほうが、ウォール街を凌駕しているのだ。
国際的な株取引の約半分、国際新規公開株の55%、国際通貨取引の35%は、ロンドンのシティが占めている。
またイギリスの外国為替取扱量は、1日当たり2兆7260億ドルであり、世界全体の40%を占めている。
もちろん、断トツの1位である。
2位のアメリカは、イギリスの半分以下の1兆2630億ドルである。
国際金融センターとしての地位は、いまだにロンドンのシティが握っているのである。
なぜロンドンのシティが、これほど世界金融に影響力を持っているのか?
それは、イギリスがタックスヘイブンの総元締めだからである。
国際決済銀行(BIS)によると、イギリスとその海外領のオフショア銀行預金残高は推定3兆2000億ドルであり、世界のオフショア市場の約55%を占めているという。
つまりはタックスヘイブンの金の大半は、イギリスが取り扱っているのである。
イギリスの「経済力」というのは、世界経済の中でそれほど大きいものではない。
世界のGDPのランキングでは、ここ数年第5位である。アメリカのGDPの7分の1に過ぎない。
そのイギリスが、金融の国際取引において、最大のシェアを持っているのだ。
タックスヘイブンの存在が、いかに世界のお金を歪めているか、ということである。
リーマン・ショックはロンドン発だった
近年、イギリスはなりふり構わぬという姿勢でマネーゲームにまい進してきた。
国際経済において、イギリスが行ってきた「禁じ手」というのは、タックスヘイブンだけではない。現在、世界中で行われている「狡猾なマネーゲーム」の多くはイギリスが関与しているものである。
マネーゲームの中心地は、ウォール街ではない。ロンドンのシティなのである。ウォール街は、シティに追随しているに過ぎない。
イギリスは、金融や企業の規制が、アメリカなどに比べて非常に緩い。
規制を緩くすることにより、世界中の企業やお金を呼び込もうということである。
ロシアの企業は、海外で上場するとき、ニューヨークではなく、ロンドンのシティを選ぶ。シティは、ニューヨークやほかの地域に比べてガバナンス基準が緩いのである。
通常、各国の上場市場では、投資家を保護するために、上場する企業に対して様々な基準、規制を設けている。その規制が、ロンドンは緩いということなのだ。
上場する企業の側にとっては、上場しやすいので都合がいい。が、投資家にとっては危険が大きい。
ロンドンのこの規制の緩さにより、世界中の金融機関、投資会社がロンドンに集まることになった。そのため、ロンドンは、ニューヨーク以上の国際金融センターの地位を維持しているのだ。