建前により先進国としての責任を回避

なぜ、イギリス本島ではなく、イギリス勢力圏の島々にタックスヘイブンはつくられたのか?

イギリス本島では、さすがに税金を安くすることはできない。また金融に対する規制や監視などにも、イギリスは先進国として責任を持たなければならない。

しかし、世界に点在するイギリス領の島々であれば、その責任は持たなくていい。

イギリス側は、他国から抗議がでれば「自治領なので、我々の責任外だ」という言い訳ができるからである。

イギリスは、昔から海外領を使って外交上の問題をクリアしてきた伝統がある。

たとえば、ジャージー島である。

ジャージー島とは、イギリス海峡に浮かぶイギリスの王室属領である。外交や国防については、イギリス本国が行うが、独自の憲法、議会によって自治を行っている、という建前がある。

イギリスはこのジャージー島を都合よく使った。

ヨーロッパの政治犯が、イギリスに亡命を求めてきたとき、イギリスは彼らをジャージー島に匿った。そして他国から抗議を受けても、事実上はイギリスの統治下にありながら、「ジャージー島は自治地域であり、我々の管轄外だ」と言い逃れしたのだ。

それと同様のことを、やろうと考えたのである。

イギリスには、まだ世界中にイギリス領やイギリス王室属領が点在している。そこを使って、「税金が安く」「銀行秘密法のある」地域をつくろうということである。

こうして、タックスヘイブンを誕生させたのだ。

世界中に広がるタックスヘイブン

イギリスの海外領がタックスヘイブン化していくのを、他の国々はただ手をこまねいていたわけではない。

アメリカは、当初からタックスヘイブンの最大の被害者だった。

だから1961年ごろから、アメリカは、タックスヘイブンへの取り締まりを強化しようとしてきた。

が、イギリスの老獪ろうかいな対応に翻弄され、それがままならない。

そこで、今度はアメリカ自身がタックスヘイブンを創設、運営するようになった。元々アメリカは、州によっては税金が非常に安かったり、会社が非常につくりやすかったりするケースがあった。

それらの州が、イギリス領のタックスヘイブンに対抗するようになったのだ。

そしてケイマン諸島でイギリスがやったのと同様のことを、アメリカはマーシャル諸島で行い始めた。

もちろん、この流れは、アメリカだけのことではない。スイス、ルクセンブルク、オランダなどは、イギリスの海外領に対抗して、自身もタックスヘイブン化していった。

これらの地域は、元々金融の秘密性を持っていたり、税金が安かったりした。それをさらに、会社をつくりやすくしたり、金融の規制を弱めるなどして、企業や資産を呼び込もうとしたのである。

こうして、タックスヘイブンは世界中に広がることになった。

それでも、タックスヘイブンとして、もっとも有害で、もっとも金を集めているのは、イギリスの海外領だった。

2016年に公表された「パナマ文書」の主要舞台となっているヴァージン諸島も、もちろんイギリスの海外領である。