経済的な動機で始めた副業

中村氏が副業をはじめたきっかけは、2013年の同氏の日本マイクロソフトからサイボウズへの転職だった。サイボウズでの報酬は、前職より低かった。だが幸いなことに、働き方改革を先駆的に進めていたサイボウズは、この当時より副業を認めていた。そこで中村氏は、収入減の補塡ほてんを狙って副業を始めたのである。

畑のニンジン
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中村氏はまず、ノーリツ鋼機の子会社だったNKアグリの契約社員となる。当時のNKアグリは、各地の農家と契約を結び、作物の育成データなどを管理して収量の増加につなげていく事業を展開していた。そして、そのデータ管理のソフトにサイボウズのキントーンが使われていたのである(NKアグリは、台風被害などにより2020年に事業の継続を断念し、現在は解散している)。

さて中村氏は自社のクライアントのNKアグリに、逆に契約社員として雇用してもらうことにする。そして、義理の父が所有する千葉県印西市の畑の一角を借りて、週末のニンジン栽培をはじめる。

収入とは別の部分で得た充実感

この中村氏の挑戦は、意図せざる結果に終わる。第1に、ニンジン栽培から得ることができた金銭的な報酬は、微々たるものだった。たしかに農業は、やり方によっては収益性に富んだ事業となる。しかし中村氏が試みたように、限られた時間と場所で作物を育てるだけでは、家計の支えとなるような収入は得られなかった。

意図せざる結果はこれだけではなかった。第2に中村氏は、想定外のところで充実した日常を体験することになる。中村氏の起業家的副業に興味をもった行政などから、「IoTと農業」をテーマとした講演などの依頼が舞い込んできた。講演をしてみると、反応があり、感謝される。農業そのものが新しい体験だったし、そこから広がる人脈も新鮮だった。

中村氏にとって、副業を通じて広がっていく体験は楽しかった。金銭的な収入とは別のところで、何か社会性を帯びた、未来に向けた活動に、自分が関わっているという充実感をもてるようになったという。