エフェクチュエーションの行動原則に合っていた

ドローンなどを使ったムービー撮影、畑つき多目的スペースの貸し出し、IT/IoTを使った農業経営講座、パエリア料理教室など、中村氏が現在コラボワークスで展開する9つの副業は、いずれも収入より、自分らしい個性的な経験を積むことを目的としたものである(図表2)。

中村氏が手がけてきた副業は結果的に、エフェクチュエーションの行動原則に合った展開となっている。中村氏は副業をはじめる際、多額の資金をつぎ込むようなことはしていない。手許にある手段を活用し、中村氏が「おねだり」と呼ぶ依頼を、友人や知人、同僚や取引先に対して行い、ノウハウを教えてもらったり、ネットワークを紹介してもらったり、リソースを使わせてもらったりしている。

このように中村氏は自身の既存のリソースを使い、大きなお金を使うことのない範囲で起業を行う。だから、新しい副業に次々と踏み出していくことができる。エフェクチュエーションでいう「手中の鳥」と「許容可能な損失」の原則に対応した行動である。

起業に失敗はつきものだが、「手中の鳥」や「許容可能な損失」の原則に従っているかぎり、致命的な傷を負うことはない。そして致命傷とはならないから、失敗をしても次の新しい行動をどんどん起こすことができる。

副業で体験することになった想定外の幸福感

副業であろうとなかろうと、起業家の行動は、次々に壁や制約にぶちあたる。思ったように収入が得られなかったり、機器の故障があったり、新たに規制が課されたりする。しかし中村氏はそこでめげたり、不運を嘆いたりするわけではなく、問題への対応を試み、軌道修正を行う。そしてそこから学んだ新たな知見を活かし、次の展開につなげる。

中村氏にとっては、収入増という経済的な動機からはじめた副業だが、この当初の目的は達成できなかった。しかし中村氏は、副業から体験することになった想定外の幸福感――自分は何か社会性のある貢献にかかわっており、日々の充実感が高まっているという感覚――を見逃さなかった。当初の目的であった収入増はほとんど実現していなかったが、それとは異なる幸福感をしっかりとキャッチし、中村氏はそこに反応していく。こうした中村氏の行動は、エフェクチュエーションでいう「レモネード」「クレイジーキルト」「飛行中のパイロット」といった原則に対応している。