長い間モラハラ被害を受け続けるとどうなるのか。弁護士の大貫憲介さんは「夫のモラハラを受け、感情を殺しているうちに、泣いたり笑ったりして感情を外に出すことができなくなる妻は多い。モラハラのような精神的攻撃を受けると、相手の心身は傷つき、時にボロボロになってしまう」という――。
暗いトンネルの中ででたたずむ女性
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです

モラハラで感情を外に出せなくなった妻

私の事務所に相談に来た、30代後半の女性Aさんは、顔の表情に苦悩がにじみ出ていた。昭和中期まで、よく言われた「所帯やつれ」である。この言葉は、既に死語となっている感はあるが、離婚弁護士の体感として、所帯やつれの女性の数自体は、昭和中期と比べ、それほど減っていないと思う。

そのAさんは、「いつも夫から怒られてつらい」と言った。「つらくて泣くことはあるか」と尋ねると、もう何年も泣いたことはないという。新婚当時は、つらくて涙が出たが、泣くと「泣けばゆるされると思っているのか」と余計に怒られるので、泣かないよう我慢しているうちに泣けなくなった。声を立てて笑うことも、もう何年もないという。

Aさんは、夫のモラハラから身を守るために感情を殺しているうちに、感情を外に出せなくなってしまったのだろう。昔の快活なAさんに戻るのは、とても難しいし、夫と別居・離婚しても、快活な状態に戻るには、何年もかかるだろう。

ところで、Aさんのように感情を押し殺している女性は、突然大粒の涙がはらはらと頬を伝うことがある。例えば、台所に立っているとき、道路を歩いているとき、突然、何の脈絡もなく熱い涙がこぼれる。傷ついた心が「つらい」と訴えるのだ。

モラハラが原因で起きる「夫源病」

そのようなつらい毎日を我慢しているとどうなるか。医師たちは、夫が原因で妻にさまざまな症状が出ることに気付き始めている。

更年期障害に詳しい石蔵文信医師は、夫が原因のさまざまな心身の不調を「夫源病」と名付けた。この「夫源病」の原因は、夫のモラハラにあるという。

認知症を専門とする長谷川嘉哉医師は、アルツハイマー型認知症の女性患者の夫は、「個性的な方」が多いと指摘している。長谷川医師は「個性的な方」と上品に表現されているが、要するにモラハラをする夫(モラ夫)、それも末期的なモラ夫の、日常的、継続的モラハラが妻の脳に影響して、認知症の一因になっているのではないかと疑っているのだ。

日常的にモラハラを受けている妻は、ストレスからさまざまな身体の不調を起こす心身症になったりすることがある。また、ストレスにより免疫力が低下して、さまざまな病気になったり、心身がボロボロになる妻も決して少なくない。まさにモラハラは万病のもとである。