医療現場で30年働く医師からの解決案
医学部地域枠制度は入学時の約束を守る限りでは、「経済的な心配なく医師になれる」制度ではあるが、離脱時ペナルティーは年々厳しくなる一方である。しかしながらこの制度は、憲法の定める職業選択や住居の自由に矛盾する制度だとの指摘もある。そして本人が「専門医は要らない、奨学金は返すから東京(都市部)に出たい」と望めば、強制的に地方にとどめて働かせることは不可能である。
とはいえ、安易に離脱を認めては真面目に地方病院に勤務する元地域枠医師との不公平感はぬぐえない。また、近年はSNSなどで「東京に出た元地域枠医師のキラキラ生活」が、地方に残った元同僚にも伝わってくるので、離脱を放置すれば次の離脱者を生みかねない。
2024年度からは「働き方改革」法案が医師にも適用され、時間外労働は年間960時間以内に規制されることになった。違反した管理者には罰金や懲役などの罰則が予定されている。しかしながら、「技能向上集中研修中の医師」については、例外的に年1860時間の時間外労働が認められている。
そこで医療現場で約30年間働く筆者は次のような提案をしたい。
現在「9年間」のような年数でカウントされる義務期間を、「9年間もしくは、指定病院で時間外を含めて合計18000時間の勤務」といった形でも認めるのはどうだろうか。こうした弾力的な運用であれば、若手医師は体力のあるうちに当直を多数こなして「20代で義務終了」も可能だ。あるいは、「東京の病院に勤務しつつ、土日は母校附属病院で当直」のように「義務の分割払い」も考慮する。
一方的に「9年間」と定められると、若手医師としては「懲役9年」のような気分となり耐えられなくなって「やっぱ東京へ行こう、どうせ辞めるなら若いうちに」と開き直ってしまいがちだ。地方病院はどこも当直医の確保に苦労しており、2024年度以降はさらなる苦労が予想される。努力次第で義務終了を前倒しできるなら、地方病院も本人もWin-Winになると思うのだ。