医学部地域枠のデメリット

【デメリット4:離脱すると専門医が取得できない】

さらに2021年度からは、「離脱した元地域枠医師は、(研修医の後の)専門医研修を終えても専門医資格が得られない」という規則が追加されている。よって、元地域枠医師が東京で就職しようとすれば、「厚労省の補助金とは無縁の中小病院」「専門医資格を気にしないクリニック」など、就職先が著しく限定されることになった。

【デメリット5:離脱理由の厳格化】

かつてのように「出産/病気/介護」といった個人的理由による離脱も認めない都道府県が増えている(図表2:茨城県の例)。都道府県から正式に離脱が認められるのは、「死亡/退学」のような勤務不可能なケースに限定され、「出産/病気/介護」のようなケースは「義務年限の中断」として扱い、理由が解消したら義務地域への復職が求められるだろう。

【図表】離脱事由の例
図版=茨城県の「地域枠を離脱した場合の対応」より茨城県の対応(案)

10年前の地域枠入試といえば「書類1枚にサイン」レベルの紳士協定も多かったが、2023年度の茨城県地域枠は「出願前にE-ラーニング受講が必須」「本人のみならず連帯保証人2名の署名捺印」と、法律的にも簡単には足抜けできなさそうなシステムになっている。

【デメリット6:入学後に条件が追加されることも】

都道府県によっては、入学後の6年間のうちに医師不足が加速したり、知事が交代したりした際には、当初「県内で9年間」だった義務が、「県内の医師不足地域で9年間」「専攻科不問」→「内科・外科・産婦人科・総合診療科限定」など条件が追加されるケースもある。

2022年12月、宮崎県の地域枠研修医2年次の6人(26人中)が「宮崎県キャリア形成プログラム」に不同意と回答したことが報道され、医療関係者のSNSでは、「約束は守るべき」「守らない奴は医師免許を剥奪せよ!」などの厳しい意見が見られた。

しかし、その後の報道では、「宮崎県キャリアプログラム」の策定は2019年度であり、当該研修医の入学時には単に「県内で勤務」だったのを県が一方的に「9年間のうち4年間は医師少数地域勤務」に変更したことが判明し、SNSは逆に同情論に傾いた。入学時の誓約にあった「県内で勤務」そのものは守られているので、県側も2~4のようなペナルティーは課さないようである。