分娩数が年100~150件、年収は1000万~2500万円。北海道の人口2万人の町が産科医を1月に募集したが、医師たちの反応は冷ややかだった。麻酔科医の筒井冨美さんは「地方の医師不足は年々深刻化していますが、産科医に関してはより多忙で訴訟リスクがあり、コスパを重視する時代背景の中、志望する若手医師は減りつつある」という――。
新生児の誕生
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年収2500万円の求人はなぜスルーされるのか

2023年1月、医療関係者の間で、ある求人広告が話題になった。

「守らなければいけない命があります」

医師向けの求人情報サイトがそんなコピーとともに、北海道中部の旭川市の東に位置する遠軽町(人口約2万人)の遠軽厚生病院が産科医を募集していることを特集記事として掲載した。上記コピーに加え、町長が町の豊かな自然を謳い、住民からの手紙が添えられたページだが、「給与・拘束時間」など転職を検討するのに不可欠な情報は記載されていない。

別の医師転職サイトを検索して当該求人の詳細を調べてみると、「分娩ぶんべん数が年100~150件、年収1000万~2500万円」、そして「敷地内に医師住宅があって交代で待機し、分娩時には夜間休日でも対応する」といった条件のようだ。

SNSでの医師たちの反応は冷ややかだった。

常勤医2人としても365日の半分は拘束状態となる。冬期はマイナス20度を下回る気候の中「病院に住み込んで24時間対応」のようなライフスタイルは昨今の若手医師には敬遠される。

しかも、給与水準は首都圏や札幌の産婦人科とさほど変わらない。産婦人科医、中でも「夜中の分娩や帝王切開に対応する産科医」は都市部においても不足しているので、わざわざ北海道へ行こうという気持ちにはつながりにくい。

地方病院としては三重県尾鷲市が2006年に年収5520万円で産婦人科医を招聘しょうへいした事例などに比べて、見劣りするのは否めない。