夫婦関係や人付き合いは極めてフラットでリベラル

政治思想的、特に家族政策などについては強固な保守と言われる安倍元総理だが、夫婦関係や人付き合いについては極めてフラットで、むしろリベラルだったようだ。

例えば「家庭内野党」を評価する声が多かったころ、昭恵さんは明確に安倍元総理と政治主張が違う人たちと積極的に会っていた。LGBTの当事者や、脱原発の活動家などに自分が会うことで「私が話すことで、夫を理解してもらえるかもしれないし、夫にも普段とは違う意見を伝えられるから」だと述べている。

これまた保守派の安倍支持者のなかには、こんな昭恵さんの振る舞いに眉を顰める向きもあった。だが、イデオロギーがちがちのスタンスから人や意見を色分けし、ほめるかけなすかしかできない人たちより、よほど本当の意味での「政治」のあるべき姿に近い姿勢だったのではないかと今、改めて思う。

あまり安倍元総理が自らのオピニオンとしては口にしない、SDGsに関しても、昭恵さんはその種の事業に携わっている若い人材と、安倍元総理を引き合わせたこともあるという。「昭恵が言うなら」とその席に来たのであろう安倍元総理の姿を想像すると、夫婦でありながら、信頼する同志でもあったのかもしれないと感じる。政治家だから、というだけでは済まないほどの困難を乗り越えてきた二人なのだ。

ビジネスパーソン同士が握手
写真=iStock.com/alvarez
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ツイッター上で飛び交う罵詈雑言

ツイッター上では、もとよりあった政治的対立に加え、衝撃的な最期となったことで安倍批判派と支持派それぞれの強い感情、下手すれば罵倒が飛び交っている。そうした事態を目の当たりにしてのことだろう、安倍政権批判の急先鋒で知られる作家の室井佑月氏は、事件後にこうツイートしている。

〈うちの旦那が殺されて、「よかった」って言われるの? 隣にいた私も「しょうがないじゃん」って言われるの? 応援してくれる支援者の方々が被害にあったら、私らはどうしたらいいの? 自分の考えの方向と、今回の事件は違う。今回のことはあってはならなかった酷い事件だ、で一致したい〉

室井氏自身、現衆議院議員で元新潟県知事の米山隆一氏と結婚した「政治家の妻」でもある。死に際しても、「自業自得である」と言わんばかりの反安倍派に対する疑問を呈した形だ。筆者自身も室井氏とは政治思想は全く逆だが、このコメントには同意する。

また、「最愛の人を失った」という点では、森友学園問題の余波から発生した財務省決裁文書改竄問題の影響で自ら命を絶った、赤木俊夫さんのことも思い浮かぶ。赤木さんの妻の雅子さんは、事件の全容解明のために今も裁判や発信を続けている。

この件を引き合いに、「赤木さんの死は軽視して、安倍の死だけ重んじるのはおかしい」とする批判派がいるのも事実だ。だが、すでに『週刊文春』で報じられているように、昭恵さんは「線香を上げに行きたいが、今はできない」と雅子さんにLINEを送っている。少なくとも、人間としてその死を悼み、夫を失った妻の雅子さんに対する深い同情の思いを伝えている。