岸田首相をダメにした「安倍氏の死」
物価だけは高騰するが賃金は上がらず、3人の閣僚は世論に押し切られる形で「ドミノ辞任」し、国民はあきれている。そして、防衛費をGDPの2%にと勇ましく宣言したが、財源は増税と言うので閣内も党も大混乱である。
岸田文雄首相がなぜ急にダメになったのか。それは、安倍晋三元首相が暗殺されて後見が得られなくなくなったからだ。岸田氏が首相として適任だったのは、安倍氏の後見が前提で、「安倍抜き」の岸田首相は想定外だった。
少なくとも7年半に及ぶ安倍長期政権の後半において、安倍氏は岸田氏を後継者候補ナンバーワンと想定していたし、私もそれがよいと思った。
安倍外交を大過なく引き継ぎながらも、国民の飽きを防ぐためには経済社会政策では、少しリベラルな基本ポジションに軸足を移したほうがよいように見えた。また、いい加減に決着をつけねばならない憲法改正にしても、「戦後レジームの克服」などと高飛車な安倍氏の姿勢より、「実態と合わないから」という岸田氏のソフトムードの方が国民投票で負けるリスクが小さい。
結果的に菅義偉首相になったのは、任期満了での総裁選挙や、4選後に任期途中で禅譲といった常識的な日程でなく、安倍氏の病気辞任という非常事態だったからだ。
政治家としてのすごみが欠けている
2021年の総裁選挙で安倍氏が高市早苗氏を支持したのは、「河野太郎新総裁」を回避するために三つ巴にする必要があったからで、安倍氏も岸田氏の当選を想定していたはずだ。
そして、就任後の岸田首相は無難で、支持率も高かった。総選挙にも勝ったし、参議院選挙の大勝は安倍暗殺に少し上乗せされたにせよ、見事な結果だった。
ところが、その後は、散々だ。国葬など根回しさえ怠らなかったらどういう形であれ無難な着地ができた問題だ。旧統一教会問題を受けた被害者救済新法などへの対策は正当だが、少なくとも政治テロに報酬を与えるような形で進めたことは民主主義に対して大きな悔いを残すだろう。
自分の確固たる信念、孤立を恐れない勇気、守るべき人を損得抜きで見捨てない、勝負どころでの果敢さ、政治家としてのすごみといったものが、安倍氏にはあって岸田氏にないものだ。