頭脳明晰だが突破力のない岸田首相と林外相

岸田家は東広島市の富農だったが、曾祖父が台湾で成功し、祖父の正記氏は衆院議員も務めた。林家は江戸時代から下関の豪商で、高祖父が代議士、祖父の佳介氏が衆院議員だった。そして、父である岸田文武氏と林義郎氏はいずれも通産官僚(現・経産官僚)から政治家になった。私の役所勤め時代の先輩だが、紳士で人望が厚かった。

文武氏の妹は宮澤喜一元首相の弟で元法相の宮澤弘の夫人、林外相の母親は宇部興産の俵田家出身で、弟が木戸侯爵家を継いでいる。

岸田首相は小学生時代に米国にいて早稲田大学政経学部卒。林外相は東京大学法学部から米国留学。民間企業で修業したのち父親の秘書となった。選挙地盤は安定しているので、厳しいどぶ板選挙は経験していない。

両人とも頭脳明晰めいせきで「政界のプリンス」といわれ、聞き上手で自分の意見を言わず、党内や各省庁のとりまとめに重宝されてきたので、官僚の間での評判もよい。

だが、政治家として何をやりたいのか、よく分からない。魅力的な政策を掲げることもなく、難局突破のための先陣を切るわけでもない。

これだから、安倍元首相という後見人が発破をかけて方向を示すなかで、野党やマスコミも含めた反対派との調整にあたるとか、世界から一目置かれ続けている安倍氏の助力を得ながら外交を展開している分にはよかったのだが、その後ろ盾を失ったら何とも頼りない。

平成・令和の首相は世襲政治家ばかり

2020年9月16日、菅義偉首相が首相に就任
2020年9月16日、菅義偉首相が首相に就任(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

近年の自民党では、世襲政治家が主流になっている。数だけでなく、年齢の割に若くて閣僚になるし、当選回数の割に重要ポストに就ける。

自民党が政権復帰した1996年の橋本龍太郎首相以降、自民党の首相は9人であるが、親に政治経験がある点で一致している。

橋本・安倍・岸田の3人は父親の死去ののち直接継承。福田康夫は父親の引退。小泉純一郎は地盤を受け継いだが一回落選したのち当選。小渕恵三は5年、麻生太郎は24年の空白期間を置いての継承、森喜朗は父親が町長で地元政界のドンだった。

菅義偉だけは父親が町議だが選挙区とは関係ないという意味では世襲政治家でない。