物を相対的に見ていては、本質は見抜けない

林さんは翌日、小西さんにたずねた。

「『小西、俺は今コーヒーカップの取っ手を持ってる。この取っ手はどこに付いとる?』

またわけのわからんことを訊くなあ、と。僕はカップの右側ですって言ったら、林さんはうれしそうな顔をして、『お前はちゃんと考えとるのか? じゃあ、反対の手で持ったらどうだ?』

あ、はい、左です。すると、またうれしそうな顔で、『俺は今、本質とは何ぞやをお前に教えてる。こうやったら右、こっちは左って、お前はちゃんと考えとるのか?』と。

そうかと思って、『取っ手はカップの外に付いてます』と答えたら、『そうだ、初めからそう言え。本質を見抜く力についてしゃべろうと思ったから、この話をした。右とか左と答えるのは物を相対的に見ているからだ』。そんなことを半日かけて教えるんですよ」

トヨタの教育とは、ここまで徹底してやるそうです。結局のところ、手をかけなければ本質を伝えることはできないと思っているのでしょう。トヨタ生産方式を広めるために講義だけを行うのではなく、自主研の場を作り、発表会を行う。発表会の前にはリハーサルを行う。そうして、手間をかけ、時間をかけて会社とは何か、仕事とは何かという本質を伝えるのがトヨタの教育です。

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