「寿司屋のおやじが若い職人を育てるみたいな感じ」

名古屋グランパスエイトの社長、小西工己さんが教わった林南八なんぱちさんもまた学ぶのが好きな、教え上手な先生でした。林さんはトヨタ生産方式の伝道者として同社では有名な人です。

林さんは小西さんに目を付けました。

「小西、お前がケンタッキー工場に送るトヨタ生産方式のマニュアルを作れ。もちろん英語版もだ」

小西さんは「大変な役目を背負わされた」と感じたそうです。

林さんの教え方について、小西さんはこう言っています。

「徒弟制度の延長でした。寿司屋のおやじが若い職人を育てるみたいな感じで。苦労して育てた分しか育たないというのが林さんたち先輩方の教え方の基本でした。1人が30人を集めて座学で形式知化されたものをぱっと教えたって、どうせすぐに頭から抜けるだろうというのが根本にあったと思います。

とはいえ、私は学んだことをグローバル化しなきゃならなかった。英語化もしないといけない。『ラインの横で作業者を見とれ、立っとれ、見たら分かる』では海外のトヨタ社員には通用しないわけです。

そこで僕は苦労の末に『トヨタ生産方式に基づく問題解決』という教材、原理原則のテキストを作るに至りました」

自動車工場の組み立てライン
写真=iStock.com/gerenme
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「小西、どうしてミルクは白いと思う?」

広報とトヨタインスティテュートという教育研修セクションの仕事をしていた小西さんは国際人事部時代約1年間、週に2~3回、林さんから教育を受けました。1対1の膝詰めの教育でした。

小西さんは思い出します。

「初めての時、南八さんからこう言われました。『小西、子どもは、どうしてミルクは白いの? と聞くだろう。小西、お前はどうして、ミルクが白いと思う?』

もう、ぜんぜんわからない。でも、そこから始まるんですよ。

大人は『それは牛からとれるからだ』と答えたとする。すると、『牛からとれたらなぜ白いの?』とまた聞かれる。大人はそこで立ち往生。『小西、子どもは何でもなぜ、どうしてってくだろう。あれが問題を解決する入口なんだ』。

『大人になったらそんなの当たり前だろうとか、そんなになぜなぜってやっても意味がないと言う。だから大人は成長せんのだ。子どもはすぐになぜと聞く。だから成長する。トヨタの社員は成長するために、なんでも、なぜと聞くんだ。いいか』

つまり、『なぜなぜ解析』の重要性を教えてくれたんです。

仕事とは考えることで、考えるとは、その前になぜ? と素朴に疑問を持つことなんです。林さんはどんなことにでも問題意識を持たないと成長がないんだと伝えたいために、『どうしてミルクは白いんだ?』から始めて1時間も2時間も私に話をしました。それだけやられれば一生忘れませんよ」