ここ数年、ブレグジット(イギリスのEU離脱)が世界中のメディアを賑わせた。2016年の国民投票で51.9%の国民がEU離脱を選んだことに端を発し、3度の延期を経て、2020年12月31日、イギリスは1993年の設立以来加盟していたEUを正式に離脱した。
ヨーロッパ諸国と一線を画したこの件が放つメッセージは大きい。
なぜ、イギリス国民はブレグジットを選択したのか。この背景には、個人または地域レベルでの貧弱な経済があるといわれる。これを根本的に解決するために、あえて劇薬を求めたというわけだ。
振り返れば、40年ほど前のイギリスでは財政が逼迫していた。「ゆりかごから墓場まで」と言われた手厚い社会保障政策のあおりを受けたのだ。
これを問題視した時のサッチャー首相は、さまざまな財政再建策を講じる。その中に、水道事業の見直しがあった。当時、イギリスでは水道事業が財政を圧迫する要因のひとつだったからだ。
サッチャーはこの水道財政を国家財政から切り離し、強硬に水道事業の完全民営化を押し進めた。その是非に関してここでは論じないが、部分的に民営化するのではなく、すべての水道局を一気に民営化したイギリスの例は世界でも極めて稀だ。
民間水道会社の危険な本音
1989年、イギリスの水道局は完全に民営化された。それから約30年、ブレグジットを選択したイギリスは、サッチャー首相が意図した通りの道筋を歩んできたのだろうか。
先述の通り、現在、イギリスには民間の水道事業者は全部で18社ある。公営事業はほとんど存在しない。そして、これら18社すべてで、漏水に関する現状は惨憺たる有様だ。
念のために言うと、民営化そのものは成功した。水道事業は国家財政に影響を与えなくなったという意味ではその通りだ。
しかし、国民目線からすれば、必ずしも成功とは言えない。
水道民営化とは、別の言葉で説明すれば、イギリス政府が保有していた水道事業のエクイティの民間企業への売却だ。エクイティとは、対象となる水道事業全体を使用・収益・処分するための包括的な権利のことで、民間企業ではこうした権利のことを株式と呼ぶ。
政府からそれなりに大きな水道事業のエクイティを買える民間企業は限られる。実際にイギリス政府は、フランスの「ジェネラル」(現在のヴェオリア)や「リヨネ」といった大企業と有名投資ファンドに水道事業を売却した。
ここからは僕個人の見解になるが、株式会社、特に大企業と呼ばれる株式会社というのは一筋縄ではいかない。表向きは耳あたりのいいことも言うが、彼らの目的は自分たちの株主を儲けさせることだ。
儲けさせる方法としては、配当を出してインカムゲインを与えるものと、株価を上げて売り抜けさせてキャピタルゲインを与えるものがある。どちらかのためにやれることは何でもやるのが、株式会社ということだ。
投資ファンドに至っては、ずっと直截的だ。事業としてモノやサービスを作ったり売ったりすることすらせず、場合によっては法律スレスレの手段を含め、あの手この手で株価を吊り上げて売り抜けようとする。