多少の漏水があっても無視する

事態を長らく放置してきたイギリスの水道事業規制当局(Ofwat:オフワット The Water Services Regulation Authority)は、こうした動きと、各水道会社の通信簿とも言える漏水率や無収水率(生産水量に対し、漏水や盗水によって生じる、生産水量から販売水量を除いた水量の割合)の高さにさすがに危機感を抱きはじめたようで、2020年度から規制強化に取り掛かっている。

加藤崇『水道を救え』(新潮新書)
加藤崇『水道を救え』(新潮新書)

特に、2018年の寒波の際に全英で発生した水道管路からの漏水の反省から、2020年から2025年で漏水量を16%減らそうとしている。

具体的には、漏水率や無収水率について具体的なターゲット(目標)を定め、決められた期間のうちに達成できない水道事業者に関しては、名前を公表した上で罰金を科す、というものだ。要するにつるし上げだ。もちろん、こうしたターゲットを達成できない事業者に対しては、水道料金の引き上げを実行させないという本格的な取り組みだ。

しかし、根本的な解決を図るには、水道管の現状を把握するというプロセスは避けて通ることはできない。

労を惜しみ、ただただ水道料金を引き上げることで、利ざやを拡大してきたイギリスの民間水道会社にとって、当局の決定は非常に大きなインパクトをもたらした。青天井に水道料金を引き上げられなくなり、規制に違反しないよう追加のコストを積み上げる結果、利益にマイナスインパクトが出ると予測されているのだ。

といっても同情はできない。すべきことをしてこなかった宿題の山が目の前に積まれているだけだからだ。

放置の挙げ句、投資ファンドを中心とした株主が、損切りした上で株式の売却に動くのではないか、と目下のイギリスの水道業界でもっぱら噂されている。補修する費用をかけたくない事業者ならびに株主の意向を反映して、多少漏水があっても無視してそのままにする傾向さえ出てきている。

これがイギリスの水道の現状だ。

節水意識が生まれにくい事情

このほかに日本との違いを記しておくと、イギリスの末端の水道管の直径はやや小さく、日本やアメリカと比べれば各家庭における水道の使用量は少ない。また、水道料金が使用量では決まらないという特性があり、多くの家庭には水道メーターが設置されていない。水道料金は家の資産評価ごとに定められていて、どれだけ使ってもどれだけ使わなくても同料金。節水意識を作りにくい構造になっている。

株主は外国資本が多く、水道事業における使用機材についても外国製品を広く受け入れる土壌がある。ブレグジットが、こうした輸入にどのような影響を与えるのかは、未知数だ。

かつてはイギリス国内で多くの水道管が生産されており、そのイギリスの水道管を日本が輸入していたことを考えると、これは大きな変化だ。僕たちがイギリスの水道の歴史から学ぶことは多い。

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