あるツイッターユーザーは、ハリウッド映画『プライベート・ライアン(原題の意味は兵卒ライアンの救出)』をもじって、『兵卒アライグマの救出』というタイトルに変えたポスター画像を投稿。ポスター中央には戦場にたたずむアライグマの姿があり、その後ろにウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とウクライナ軍の幹部たちの顔が並んでいる。

一方で「窃盗団」の身元特定に乗り出した者たちもいた。一部のツイッターユーザーは、動画に映っている兵士の一人は、ロシアが併合したクリミア半島にある動物園のオレグ・ズブコフ園長ではないかと言った。彼は盗んだ動物を自分の動物園に持ち帰ろうとしているのではないか? と。

あるユーザーは、次のように投稿した。「(動画の人物は)ロシアの味方をしているクリミア動物園のオレグ・ズブコフだ。彼はヘルソンの動物園関係者の許可を得ずに動物を盗み、クリミアに連れていく気だ」

別の人物は、檻の中でライオンの赤ちゃんとトラと一緒に遊んでいる男性のYouTube動画を共有。この動画の中の男性が今回の動画の男の一人と酷似しているとして、動物を盗んでいるのはズブコフだと主張した。「動画の中の泥棒は、ロシアに占領されたクリミア半島にあるサファリパークのオーナーで、彼のYouTubeチャンネルの動画は100万回視聴されている」

軍事侵攻の開始以来、略奪が横行

本誌はこの疑惑について独自に確認を取ることはできておらず、ズブコフ本人にも問い合わせたが、本記事の発行までに返答はなかった。

動物泥棒の動画が出回った翌日には、さらに悲惨な画像が投稿された。ロシア兵が放棄したとされる場所で、木に吊るされた動物たちの死骸が見つかったのだ。ツイートを投稿したウクライナ国防省は、「彼ら(ロシア兵)にとって殺しは娯楽なのだ」と書いた。「人間を拷問し殺せないときには動物を殺す」

殺された動物のなかには、絶滅危惧種のタビキヌゲネズミの姿もあった。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と称して、2月にウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、ロシア兵たちが略奪や盗みをはたらいたという証言が数多く上がっている。

軍事侵攻開始から3日後には、ロシア軍がウクライナの銀行や食料品店を略奪している様子を撮影したらしい動画が、ソーシャルメディア上で広まっていた。一時帰還するロシア兵が、洗濯機や冷蔵庫などの家財道具を奪っていく報道もあった。ロシア軍が遊園地の乗り物を盗んでいく様子を捉えたとする動画も、インターネット上で共有された。

プーチンの軍がウクライナで、動物園の動物をはじめとするさまざまなものを略奪しているという主張について、本誌はロシア外務省にコメントを求めたが、本記事の発行時点までに返答はなかった。

今回の戦争で、ウクライナの動物園の動物たちの運命がニュースになったのは、今回が初めてのことではない。3月には首都キーウ近郊の保護施設が、動物たちをポーランドに避難させた。その1カ月後にはハルキウの動物園の園長が、ロシア軍の砲撃でライオンやトラの檻が大破したことを受けて、これらの大型動物を安楽死させるほかないと発表し、国内外から支援が寄せられた。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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