土づくりと人づくりは、年々よくなる

農業界は人手不足に悩んでいるが、深作農園は誰を採用するか悩んでいる。そのギャップはどこにあるのか、考えてみると面白い。

高齢化と後継者不足が進む農業界は機械化、ICT化を進めることで仕事を少しでも楽にしようという方向に進んでいる。深作農園でも環境測定器を導入し、データを蓄積してさまざまな分析ができるようにしているが、機械化、ICT化に頼り切るのは危険だと語る。

「そもそも、日本の農業は楽をしたいなと思って化学肥料や農薬を使ってきたんですよね。楽をしたら、植物の質が良くなるって聞いたことがないんですよ。最新の機械、ICTを入れて先行者メリットがあるとしても、停電したら使えないものもあるし、そのうち平準化されるわけです。ずっと新しいものを買い続けるわけにもいかないでしょう。それって化学肥料と農薬の関係と同じじゃないですか。何百万、何千万もする機械を入れても、新しいものは必ず古くなる。だけど土づくりと人づくりは、年々よくなります」

仕事に懸けるまっすぐな想い

深作さんには、忘れられない思い出がある。就農してすぐの頃、土砂降りのなか、車で農場の近くを走っていたら、祖母が草抜きをしていた。

川内イオ『稀食満面 そこにしかない「食の可能性」を巡る旅』(主婦の友社)
川内イオ『稀食満面 そこにしかない「食の可能性」を巡る旅』(主婦の友社)

その姿を見た瞬間、「俺はまだまだだな」と思った。雨の日にあえて草を抜く必要はない。身体を濡らして、風邪を引くかもしれない。

祖母の行動が効率的かどうかを考えると、イエスと断言できない。でも、効率性、生産性、コスパとは別の地平に、仕事に懸けるまっすぐな想いがある。

深作さんは祖母の姿を胸に刻み、土づくりと人づくりに向き合っている。その成果が、お客さんで賑わう深作農園に表れている。

取材の終わりに、「今がんがん化学肥料や農薬をあげちゃってるところばかりだと思うんですけど、それでも未来を見据えて切り替えれば、いつか深作農園と同じように栄養いっぱいの作物ができますか?」と尋ねると、深作さんはフッと笑った。

「できますよ、それは。人間がいつでもやり直すことができるように」

筆者撮影
 
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