実家で就農した頃から、深作さんは自分が使うパソコンを自ら作るのを趣味にしている。マザーボード(主要な電子基板)、CPU、グラフィックボード(ディスプレイに画像や映像を映すための部品)など自分が求めるスペックの商品を個別に買って、組み上げていく。

それは無数にある選択肢のなかから、自分にとってベストの解を求めていく取り組みであり、曖昧さはない。

パソコンを自作するのと同じような感覚で、もっと農業そのものや栽培方法を突き詰めてみたいと思うようになった。

「パズルよりも難しい」

そうして始めたのが、土壌分析だ。

「普通の農家は、毎年同じ肥料を入れちゃうんですよ。それで去年うまく育ったから、今年も入れちゃう。それは違うんですよね。例えば、メロンにしても何年も作っていると土壌の菌のバランスが崩れるんです。それで、連作障害が起きる。そこでうちは毎年土壌分析して、なにが必要なのか、その都度判断します。土のバランスを保つための肥料なので、むしろなるべく余計なことをしない、手を加えない勇気が必要です」

深作さんは、毎年変わる土の成分に合わせて堆肥などの有機肥料を調整し、そこに放線菌、納豆菌、乳酸菌、酵母菌など有用な菌を加える。それは「超複雑でパズルより難しい」と言う。

科学的な見地から、農薬も否定しない。特に栽培に時間がかかるイチゴやメロンに関しては無農薬で病虫害を防ぐのは難しいため、深作農園で農薬を使うこともある。ただし、土づくりによって病虫害が発生しづらい環境を整えることで、一般の生産者が週に一度使う農薬を、月に一度程度に抑えることができるという。

そのうえで、「残留農薬ゼロ」を徹底する。毎年、一回数万円の費用をかけて業者に依頼し、プールに一滴垂らしてもわかるレベルの精度で検査している。農業界で農薬を使う、使わないはポリシーの違いになりがちだが、そこからは距離を置き、お客さんが口に運ぶ時に安心して食べられることを重視しているのだ。

これは同時に、土中の菌を元気に保つことにもつながる。

「土台」を固めて始めたバウムクーヘンづくり

この栄養、おいしさ、安心を兼ね備えた深作農園のメロン、イチゴなどの作物を売るのは、父親が建てた直売所だ。直売所があることで、深作農園の評価は高まっていく。

筆者撮影
土づくりと並行してバウムクーヘン作りが始まった。

通常は作物を地域の農業協同組合(農協)に卸し、農協が市場で売り、それを買った仲卸を通してスーパーなどの小売店に販売されるという流れなので、店頭に並ぶまでに数日かかる。そのため、熟したものは腐る可能性があり、熟す前に収穫してしまう。味よりも流通が優先されているのだ。

深作農園は自社の直売所があるため、しっかりと熟してから収穫する。熟す前に収穫したメロンと、養分をしっかり蓄えた完熟メロン、どちらがおいしいか、聞くまでもないだろう。それがさらに栄養満点で安心安全だから、消費者に支持されるのも頷ける。一時期、顧客にダイレクトメールを出していたそうだが、5万通を超えていたという。

この作物を「生」で販売するだけでなく、「加工しよう」と考えた深作さん。土づくりと同時並行で2009年頃から始めたのが、バウムクーヘン作りだ。