江戸時代から続く深作農園(茨城県鉾田市)の6代目、深作勝己さんは異色の生産者だ。農園に併設のカフェには行列ができ、その隣にあるバウムクーヘン専門店ではメロンバウムプレミアム(6900円)が時に4カ月待ちになる。一体なにがあったのか。フリーライター川内イオさんの著書『稀食満面 そこにしかない「食の可能性」を巡る旅』(主婦の友社)からお届けする――。
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深作農園の6代目、深作勝己さん。

行列のできる農園カフェの秘密

茨城県鉾田市に、お客さんが絶えないカフェがある。メロンやイチゴなどをふんだんに使ったメニューが人気で、時に行列もできる「LE FUKASAKU(ル・フカサク)」だ。

広々とした駐車場があり、僕が取材に行った日には観光バスが入ってきて、降りてきた乗客がカフェに吸い込まれていった。日本広しと言えども、観光地化しているカフェは稀だろう。

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「LE FUKASAKU(ル・フカサク)」の店舗。

店に入ると、平日午後にもかかわらずほぼ満席。客席を見渡すと多くの人が半分にカットしたメロンにミックスメロンソフト、フルーツを盛り合わせたスペシャルメロンパフェ(2480円)を食べていた。

僕はフルーツパフェが好きでよく食べるけど、こんな大胆なメロンパフェは見たことがない。ゴクリとつばを飲み込んで、店員さんに「スペシャルメロンパフェください」と注文した――。

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筆者が注文したスペシャルメロンパフェ。

メディアでもたびたび取り上げられるこのカフェを経営しているのは、意外な人物。江戸時代から続く茨城県鉾田市の深作農園6代目、深作勝己さんだ。彼は今年、農家を表彰する日本屈指の大きな賞をふたつも受賞している。

まずは今年2月、NHKとJA全中、JA都道府県中央会の主催で優れた功績をあげた農家や団体を表彰する「日本農業賞」の個別経営の部で大賞に選ばれた。

さらに10月には、農林水産省と日本農林漁業振興会が共催する農林水産祭の多角経営部門で、内閣総理大臣賞を受賞している。

数々の受賞歴、売り上げは約10倍に

「個別経営」「多角経営」とあるから、なるほど、農家が始めたカフェが人気になって評価されたのね……という単純な話ではない。

約20ヘクタールの農地でサツマイモ、イチゴ、ミニトマト、メロンのほか、米、小松菜、ニンジンなどを栽培する深作さんは、野菜やフルーツ、その加工品を評価する品評会で、次々と受賞しているのだ。