「父もイチゴとメロンを素材になにか相性がいいものを作りたかったみたいで、九州でカステラを見たりしてたんですよね。それである時、お茶菓子で食べたバウムクーヘンがおいしくて、どうやって作るのかなと調べているうちに、これだ! と思ったんですよ」

ここで、安易にバウムクーヘンを作れる職人をスカウトしたり、メロン、イチゴを使ったバウムクーヘンを作り始めたりしないのが、深作さん。

まずは全国のバウムクーヘン100種類以上を買い集め、軸となる味を決めた。それから半年間、農作業はスタッフに任せて、朝から晩までひとりでバウムクーヘンを焼き続けた。それは、「プレーンがおいしくないと、なにバウムを作ってもおいしくない。土台がしっかりしていないと意味がない」という想いがあったからだ。土台、そう「土」である。

快進撃が始まる

プレーンのバウムクーヘンをいかにおいしくするかを探究するなかで、素材にもこだわった。鶏卵の生産日本一の茨城産で、ボリスブラウンという赤卵を一度に200個使うことにしたのだ。

ちなみに、大手の菓子メーカーがバウムクーヘンを作る際には、卵を割って使う部分だけ冷凍された「液卵」を業者から仕入れる。それを使ってみたところ、赤卵と比べて明らかに膨らみが悪かったため、即不採用になった。

赤卵を200個、ひとつひとつ割るのはコストも手間もかかるが、思い出してほしい。お金をかけて土壌分析を怠らず、「パズルよりも難しい」土づくりをしているから、いい作物ができる。深作さんにとって、プレーンのバウムクーヘンを究めるための投資は、土づくりと同じことだ。

満を持して、2010年にバウムクーヘンの専門店「ファームクーヘン フカサク」をオープン。2年目以降、深作さんが開発したレシピをもとに、イチゴやメロンを使ったバウムクーヘンの提供を始めた。

筆者撮影
バウムクーヘンの専門店「ファームクーヘン フカサク」。

その年から、快進撃が始まる。国際品評会「モンドセレクション」、国際高品質味覚審査会、世界で最も古い歴史を持つドイツ農業協会国際食品品質品評会で金賞を受賞。「食品のミシュランガイド」とも称される国際味覚審査機構では、2年連続で二つ星を獲得した。

筆者撮影
深作さんのバウムクーヘンは国際的な品評会で金賞を受賞した。

6900円のメロンバウムは3、4カ月待ちに

そして2017年、日本一の規模を誇る全国菓子大博覧会で最高賞の名誉総裁賞に輝く。

受賞したのは、メロンバウムプレミアム。これはメロンチョコ、メロンパイ生地、バウムクーヘン、メロン羊羹を使ったもので、メロン果汁1キロが含まれるという深作農園のシンボル的な商品だ。