ここから少し、専門的な話になる。植物は、根っこを保護するために不溶性の粘液物質ムシゲルを分泌する。これは酸性多糖類、有機酸、アミノ酸、酵素などで構成されているため、土壌の微生物が栄養源として周辺に生活層を築く。

ムシゲルはネトネトしているので、その生活層は極小の土の粒のようになり(団粒化という)、空気や水、養分を土中にキープする役目も果たす。

筆者撮影
おいしさの秘密は「土づくり」にあった。

復活させた微生物との共存関係

堆肥には微生物のエサとなる有機物が含まれているから、微生物が活性化し、生活層が広がる。それは微生物によって土がほぐされ、柔らかくなることを意味する。そうすると、植物は自由に根を伸ばせるようになる。

根っこから出るムシゲルに微生物が集まる。堆肥の有機物を食べて元気になった微生物が動き回って土を耕す。植物は根っこを存分に張ることができるというよくできた自然の仕組みが、ここにある。

一方、化学肥料には植物に必要な栄養はたっぷり含まれているけど、微生物のエサとなる有機物はゼロ。そうなると、土壌の微生物は活性化しない。土は徐々に硬くなり、引き締まっていく。そこに植えられた植物は、思うように根を伸ばせない。

お客さん(=微生物)がたくさん来て、テナントがどんどん増える活発な商店街と、お客さんが来なくなって縮小していくシャッター商店街をイメージすると、わかりやすいかもしれない。

「想像してみてください。毎日ファストフードばかり食べている人と、みそ汁とか納豆とか発酵食品を食べている人、どちらもエネルギーを摂取しているのは同じだけど、どちらが健康的ですか? 発酵食品は、人間の健康に大きな影響を及ぼす腸内フローラを整えると言います。植物も単体で生きてるわけではなくて、微生物との共存関係なんですよ。うちも一時期、化学肥料と農薬を使っていましたが、父の方針で1990年からできる限り使わないことにした。それが良かったんです」

農業に必要な物理性、生物性、科学性

ここで、話を深作さんが就農した頃に戻そう。最初の2、3年は父親のもとで、種まきから機械の使い方までマンツーマンで指導を受けた。

ひと通り学んで余裕が出てきた4年目から日本各地にある有機栽培で有名な産地や団体を訪ねて回り、時には泊まり込みで研修を受けた。そこでふと、感じた。

「農業って感覚的で、科学的検証がされてない」

深作さんは、理想とする「生命力あふれる野菜」を作るために「物理性、生物性、科学性を最大限高めること」が必要だと考えた。

「物理性というのは、土の団粒化のことです。団粒化すると必要な養分、水がそこで保たれます。生物性は物理性とも絡んでいますけど、土は工業製品と違って微生物によって生きているので、居心地の良い環境を作ること。そのために必要なのが、土壌分析ですね。窒素、燐酸、カリ、pH(ペーハー)などの数値を測り、バランスを見ることができます。これが科学性です」