科学技術の驚異的な発展が豊かさをもたらした20世紀は、一方で、歴史上に例を見ない規模の戦争や虐殺が暴発した時代でもある。その過程で、人々が疑問もなく受け入れていた感情や、人を愛するといった基本的なこと、生きるかたちそのものを根底から崩壊させてしまった。その象徴が「文化や芸術、その歴史が世界のモデル」という矜持のあったヨーロッパの崩壊である。神や、人間の矜持を失い、人生が「意味のない偶発事」となってしまったときに、どのように生きるための理由を見つけるのか。本書の視線はそこにある。
クセナキスという極めて難解な現代音楽家がいた。「プラハの春」がロシアの戦車に踏みにじられ、チェコスロヴァキアが占領されたとき、「ロシア帝国の内側では、他の多くの国民が自らのアイデンティティまで喪失しようとしていた。そこで私は(中略)明白なことを理解したのである。チェコ国民は不滅でなく、存在しなくなることもありうるのだと」。クンデラのクセナキスの音楽への愛着は、そんな時代を背景としている。
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