先日、講演のため大阪のある大学を訪問した。多くの中国人留学生が学んでいたが、日本で就職活動をまったくしないという留学生がいた。
「数年間でも日本企業に勤めたらキャリアになるよ」と勧めてみたが、本人は「その数年がもったいない。変化の早い中国に一刻も早く帰りたい。機会を逃したくないからだ」と動じない。
私がこの出来事を思い出したのは、1980年代に日本に留学、就業経験も持つフランス人著者と日本人著者との共著である本書を読み始めたときだ。まさに日本企業の魅力が急速に弱まっているのを肌で感じていた。
が、危機意識が当の日本企業と共有できていないのも事実だ。本書でも「日本というフィルターが非常に強すぎて、そのフィルターを通じた選択的知覚、選択的認識をしてしまうので、(日本人が)地殻変動に気付きにくいのです」と著者は語る。
例えば、日本では中国がもう少しで崩壊すると毎日のように報道され、若者も金持ちも海外へ脱出しようとしていると思い込んでいる人が少なくない。しかし、実際は、日本の大学が中国人留学生を獲得することすらなかなかできない。その証拠に、数年前、中国人を日本の教育機関に斡旋したら、1人につき7万円ほどの謝礼をもらえた。が、最近は多くて15万円ほどに相場が跳ね上がっている。
なぜ日本の魅力がここまで薄れたのか? 本書では原因の一つは日本企業の競争力の低下だと指摘。80年代半ばから92年まで日本企業が世界トップに君臨していた当時を振り返りながら、著者は次のような結論を下す。
「単に日本の経済力がトップクラスにあった、というだけではなく、『企業が競争力を持続できるような環境を生み出し、維持する国力』において、かつての日本はトップクラスにあったと言えるでしょう」。本書に掲載された2011年の「世界競争力ランキング総合順位」を見ると、59の国と地域の中で日本は26位まで後退した。香港はアメリカと同率1位、アジア陣の中で先頭を走る。その他アジアの上位国と地域は、シンガポール(3位)、台湾(6位)、マレーシア(16位)、中国(19位)、韓国(22位)……。
むろん、競争力を判断するうえでのいくつかのカテゴリーで、日本は上位に食い込んでいる。例えば、「企業の研究開発投資比率」(2位)、「国家としての研究開発投資」(4位)、「中等教育・高等教育(大学など)の進学率」(5位)など。
しかし、「政府の効率性」はなんと50位だ!「政府部門の債務比率」「法人税率」は59の国と地域の中で最下位である。
本書のよさはこうした日本の現状を認識させてくれるところにある。しかし、出された処方箋はいまひとつ的を射ていないような気がする。処方箋はやはり日本国民の手によるものでないと、おそらく効かないだろうと思った。