ドイツのシュバルツヴァルト地方を水源とするドナウ川は、ルーマニアのデルタ地帯の町スリナで黒海に注ぐまで、およそ2850キロメートルという長大な川で、「青きドナウ」ならぬ、実際は「褐色のドナウ」である。
本書はドナウ川の源流から黒海に注ぐ河口に至るまで、ドナウの流れに沿って、各地域の文学、歴史から政治まで、該博な知識を饒舌かつ縦横に語り尽くした文化誌である。特に、ウィーンを経て、ドナウ流域の3分の2に相当するスロバキア、チェコ、ハンガリーからルーマニアの黒海沿岸にいたる各章は、知識のない私には未知の固有名詞ばかりがちりばめられていて、置き去りにされる感もあるのだが、それすら気にならず、詩興がわくほど惹かれる読み物となっている。
ドナウといえば誰しもウィーンを連想するだろうが、オーストリアを流れているのは、全長のおよそ8分の1でしかない。また、詩人ヘルダーリンが、ドイツの父祖たちがドナウ川沿いに進んだ旅を「夏の日々への、太陽の国への、ヘラスとコーカサスへの遠出」と呼んだように、まさにドナウは迂回を繰り返しながら中欧を横断して、黒海に注ぐ川なのである。にもかかわらず、著者はこう記す。
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