若者ニーズをあきらめてはいけない
いまは第4次韓流ブームと言われる。「竹島問題」をきっかけにした日韓関係の冷え込みは薄れている。韓国ドラマ、韓国映画に加え、「NiziU」や「ル・セラフィム」(5人のメンバー中2人は日本人)など、韓国のアイドルグループはいまや世界的にも人気だ。
さらにはスマホの「ギャラクシー」や有機ELテレビなど工業製品でも韓国製は多い。日本の若者にとって韓国は身近な国だ。
「若者の酒離れ」が叫ばれる中、「チャミスル」が流行した事実は、若者のニーズをうまく捉えることで、ヒット商品を開発できることを示している。
逆に、「若者は酒離れしている」と、若者ニーズを諦めてしまっては、ヒット商品を作りようがない。
『キリンを作った男』の主人公で「一番搾り」をはじめ多くのヒット商品を生んだのが、“マーケティングの天才”とうたわれた前田仁氏(1950~2020年)。前田氏が1986年に商品化した麦芽100%ビール「ハーランド」は、いまなお販売され続けるロングセラー商品だ。
「ハートランド」の表のコンセプトは「素=もの本来の価値の発見」だが、外部には出さず開発チーム内で共有した裏のコンセプトは「お客様に見つけさせる商品」だった。
「チャミスル」のヒットは眞露が意図したものではなかったが、日本の若者たちは「チャミスル」の価値を見つけ出した。
その「チャミスルが売れていったプロセス」と、前田氏がつくった「ハートランドのコンセプト」は、重なり合っているように見える。時代を超えた、ヒットの共通項といえよう。
2022年4月、眞露は発泡性の「チャミスルトクトク」(アルコール度数5%・275ml)を日本限定で発売した。
これは、先述した「チャミスルの午後ティー割り」など、日本ではチャミスルを割って飲んでいることに着目して、日本で開発した商品だ。
韓国からの輸入ではなく、日本国内でライセンス生産されている。
フレーバーは「マスカット」「すもも」「パイナップル」の3種類、価格は230円前後だ。
価格や度数、味・フレーバーから「スミノフアイス」などと競合すると思われる。
「チャミスルトクトク」の販売について、眞露はやはり販売数量を公表していないが、「好調に推移」(同社)しているそうだ。
眞露のほかにも、日本進出を急ぐ韓国の焼酎メーカーがあるという。コンビニの小さな棚に「チャミスル」の類似商品の投入を始めている。
コロナ後の市場は波乱含みだが、こうした新しい動きが、市場全体を活性化させていくだろう。