翌朝、掃除機の音で目が覚めた。「キャンプ場で掃除機?」と寝ぼけ眼で外を見ると、前出の“批評軍団”が、早々に撤収モードに入っている。芝生の上のシートやテントにコードレス掃除機をかけ、埃をコロコロで払う。そしてアルコール除菌シートで、椅子や食器を徹底的に拭きあげる。ピカピカのギアを大事そうに包んで車に積み込み、早朝にキャンプ場を後にした。無論、楽しみ方は人それぞれ。だが「ちょっと神経質過ぎやしないか?」と違和感が拭えなかったのも事実だった。
その後、キャンプ好きの友人らにその話をすると、「キャンプのマウンティングの世界は、なかなか奥深いよ」と呟く。聞けば、道具や作法、スタイルを巡り、さまざまな派閥争いも生まれているという。
「見栄を張って道具を買い続けているのが馬鹿らしくなって、しばらくキャンプから離れることにしました」
こう話すのは、神奈川県在住のAさん(35・男性)。Aさんは、10年ほど前からキャンプにのめり込み、休みのたびに道具を車に積んで自然の中に出かけては、外遊びを満喫していた。流れが変わってきたのが、ここ数年のキャンプブームだ。ブームに乗じてキャンプ人口が増え、Aさんの周りの友人や同僚でも、新たにキャンプを始める人が出てきた。
最初の頃は「一緒に行く相手が増えて嬉しい」とホクホクしていたのだが、友人や同僚が揃え始めた高価格帯で知られる人気ブランドのキャンプ道具を前に、対抗心がむくむくと湧き始めた。よく一緒にキャンプに行くメンバーで作ったLINEグループには、「どうせ買うなら、このブランドのテントじゃないと」「○○や××のブランドは、恥ずかしくて使えない」と、いつしかブランド意識にあふれた会話が繰り広げられるように。
「今月はこれを買った」「ボーナスでは、あれを狙っている」と、“買った自慢”や“買う予定リスト”を送り合うのも常だ。Aさんはそれまで特にブランド志向がなく、「安くて使い勝手の良いもの」という自分なりの基準で道具を選んでいたが、友人や同僚らに触発され、徐々に自分もブランドの道具を揃えるようになってしまった。