「無効解雇された労働者の地位を解消する対価」の値段

実は日本でも金銭解決制度の導入の検討が進んでいる。

厚生労働省は2022年4月、有識者による「解雇無効時の金銭救済制度に関する検討会報告書」を公表した。本来は報告書を受けて厚労省の審議会で法制化に向けた議論が始まる予定だが、現時点では労働側委員の反発などもあり、事実上ストップしている状態にある。しかし前述したように、岸田政権が目指す人材の流動化策の1つとして法制化に向けた議論が始まる可能性もある。

黒いスーツを着た男が「クビ」の札をこちらに向けている
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では、金銭解決制度の中身とは何か。

新たな制度とは、労働者側の申し立てに限定し、裁判所が「解雇は無効」と判断した後、職場復帰を望まない場合に、金銭解決によって労働契約を終了させる制度だ。

具体的には裁判などで解雇が無効の判決が出ることを前提に労働者の選択によって権利行使が可能になる。

つまり、労働者の請求によって使用者が「労働契約解消金」を支払い、その支払いによって労働契約が終了する。これを「労働契約解消金」請求訴訟制度と呼んでいる。労働契約解消金は「無効な解雇がなされた労働者の地位を解消する対価」などと定義している。

では肝心の解消金はどのくらいの金額が支払われるのか。

先の検討会の報告書では考慮されるものとして「給与額、勤続年数、年齢、合理的再就職期間、解雇に係る労働者側の事情など」を挙げているが、解消金の算定方法など、具体的な金額の水準には触れていない。

「一定の算式を設けることを検討する必要がある」とし、「予見可能性を高める観点から、上下限を設けることが考えられる」と言っている。

具体的な算定式や水準については今後の議論を待つ必要があるが、実は現状の解雇紛争解決の手段である労働局のあっせん、労働審判、民事訴訟でも解決金による和解が多く、金銭が支払われている。解決金の算定にあたっては勤続年数が考慮され、月収の形で算定されるのが一般的だ。平均額は以下の通りだ。(労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.174」2015年)。

・労働局のあっせん等 1.8カ月
・労働審判 6.5カ月
・裁判の和解 9.2カ月

これは平均であるが、和解事案の第3四分位(75パーセンタイル)は11.5カ月となっている。

あっせんの金額はさすがに低いが、給与の1年分もらえれば辞めてもよいという人もいるかもしれない。ただ裁判になると時間も費用もかかる。経営者に「辞めろ」と言われても訴えることなく泣き寝入りしている人も多い。経営側のある弁護士は金銭解決の必要性についてこう語る。

「わざわざ弁護士をつけてやると費用もかかるし、相当な期間もかかるしハードルが高い。次の転職が決まっている人はそこまでやらない人がほとんどだ。実際に裁判をやっていても、結局、最後は金の話になる。ほとんどの労働者はさっさとお金をもらえればよいと思っているし、それだったら手っ取り早く終わらせたほうがよい。不当な解雇をすれば給与の何カ月分支払う必要があるというルールが知れ渡れば、働く人も要求しやすくなるだろう」