「解雇規制」の動きが急…自分はいくらでクビになるか
岸田文雄首相がリスキリングなど学び直しに5年間で1兆円を投じる計画をぶち上げた。その狙いとは何か。
ひとつの柱として、企業間や産業間の人材移転を後押しするために「転職や副業などを受け入れる企業への支援を新設し、拡充したい」と述べている。
また、岸田首相はニューヨーク証券取引所での9月の講演で「ジョブ型への移行を促すため、来春までに官民で指針を作ることをめざす」と言っている。
一見、違う話のように思えるが、2つはつながっている。人材移動の円滑化による成長産業の発展はかねて政府が掲げる目標であり、ジョブ型雇用の欧米では自分の持つスキルを活かす転職がしやすくなったり、逆にスキルが陳腐化すれば解雇が発生したりする。つまり、岸田首相のいずれの発言も人材の流動化を促すことに狙いがある。
しかし、そのネックとなるのが、日本の解雇規制だ。
政府の方針を受けて発足する自民党の「DX時代のリスキリング振興議員連盟(仮称)」は政府に政策を提言する予定だが「円滑な労働移動を促す方策としてリスキリングと合わせ、金銭補償を伴う解雇規制の緩和などが議題になる可能性がある」と報じられている(日本経済新聞10月15日付朝刊)。
解雇規制の緩和で今、日本で注目されているのが「解雇の金銭解決制度」だ。
解雇に関しては労働契約法16条において「客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認めれられない」不当解雇を禁止している。
アメリカは原則として解雇自由であるが、欧州では日本と同じように合理的理由や社会的正当性を欠く解雇」を禁止している国が多い。
ただし日本は「不当な解雇」だと裁判所に訴えても原職復帰を求める「地位確認訴訟」しかないのに対して、欧州では金銭で労働契約を解消する金銭解決制度を認めている国も多い。
しかも金銭の解決金の水準には一定のルールが設けられており、例えばドイツでは日本の整理解雇など経営上の理由に基づく解雇に限定し、使用者が解雇するときは労働者が解雇訴訟を起こさない前提で補償金を支払うルールもある。
その場合の算定式は「勤続年数×月収×0.5」となっている(解雇制限法1a条)。0.5を上下させる重要な要素の1つが年齢だ。年齢が高いと0.7とか0.8になるなど、ドイツの裁判での和解の解決金の一般的ルールになっている。