庶民感覚とは真逆の姿勢に辞任要求も
しかし、その日銀はいま異次元緩和の出口に苦心しており、過度の円安への対応で矢面に立たされているが、黒田総裁は頑なに金融緩和の継続を主張している。その最中に通貨マフィアとして親交が深く、同じ金融緩和論者のバーナンキ氏のノーベル賞受賞は、自身の金融政策が間違っていなかったとお墨付きをえたようなもの。喜びは隠しようがない。海外の講演で金融緩和の継続を強調したのは黒田氏の心中を象徴している。
黒田総裁は10月15日、ワシントンで開催された国際機関や中央銀行など金融関係者らが集まる討論会にスピーカーとして出席し持論を展開した。焦点となっている物価については「日本では、物価上昇率が2%を超えているが原材料費などのコスト上昇によるもので、来年度の物価上昇率は2%を下回ると予想される」と述べ、現在の物価上昇は一時的なものだとの認識を示した。
その上で、「物価は上がらないというノルム(社会の考え方)を変え、賃金の上昇を伴った持続的で安定的な物価安定目標を確実に実現するには経済を下支えする必要があり、そのためにも金融緩和を継続することが適切だ」と強調した。
しかし、庶民の体感は黒田総裁の発言とは真逆だ。一時1ドル=150円を突破した円安進行と輸入物価の急騰に消費者は危機感を強めている。そうした声は政治の場にも持ち込まれた。18日の衆議院予算委員会では、野党から辞任を迫られる場面があった。
金融緩和の失敗は「事実に反する」
質問に立った階猛氏(立憲民主党)は、円安阻止へ為替介入を実施した政府と、円安を加速するような低金利政策を2013年以降続ける日銀の食い違いを指摘。「金融政策の正常化・柔軟化に向けて(黒田総裁は)即刻辞任すべきだ」と質した。
これに対し黒田氏は、金融緩和を行わなかった場合と比べて、実質国内総生産は(GDP)は平均でプラス0.9~1.3%程度、消費者物価は前年比平均で0.6~0.7%程度押し上げられているという計量経済的な分析を示して、「異次元の金融緩和はデフレを解消し、成長を回復し、雇用を増加するという意味で効果があった」と説明。「量的・質的金融緩和がまったく失敗したということは事実に反する」として、「辞めるつもりはない」と強調した。
この黒田氏の説明に呼応するように岸田首相も、金融政策は為替だけでなく総合的に勘案して判断すべきであり、政府と日銀が13年に結んだ政策連携に関する共同声明(アコード)を「見直しはいま、考えていない」と述べた。