診療所側に「重い病気の人」を診る姿勢があるか

冒頭で紹介した読売新聞「人生案内」に寄せられた相談内容では、病院勤務の看護師が「自宅で看ることも、できないことはない」と述べている。できないことはないというのは、できない可能性が高いけれども「がんばればできる」イコール「ほぼできない」ということではないか。

山中医師も大きくうなずく。そして、「重症の患者さんだったり、介護環境が悪かったりすると『家で看れるはずがない』と言ってしまうドクターはよくいる」と指摘する。

「とにかく困ったら救急搬送なんです。ですが本来は、こういうふうに看護師を入れよう、ヘルパーさんにお願いしよう、点滴しよう、入浴サービスを入れようと調整するところまで含めて在宅医療の役割だと思いますね。少なくとも診療所側に“重い病気の人でも診ようとする姿勢があるかどうか”が大切です」

【図表】しろひげ在宅診療所の「看取り数」の推移
しろひげ在宅診療所の「看取り数」の推移(出所=しろひげ在宅診療所のサイトより)

「1~2時間おきの痰吸引」は必要ない

とはいうものの、私には気になることがあった。

一つは「痰の吸引」だ。脳疾患や呼吸器系疾患、パーキンソン病などの病気、または患者の体力低下によって、痰や唾液などの分泌物を自力で吐き出せなくなる。その際、吸引器によって痰を取り除くことが必要になる。医療行為ではあるが、家族による実施は認められているため、在宅介護になると夜に数時間おきに起きなければならないと聞く。それについて質問すると、「そんなにしなくても大丈夫」と山中医師。

「痰の吸引については医学的な細かい話があるのですが、大まかに説明すると、点滴量を適切にし、体に余計な水分がたまらないようにすればいい。病院のドクターが、在宅に移行する家族に対して『1~2時間おきに吸引してください』と説明するケースもよくありますが、僕は退院した初日に『そんなにしなくていいです』と言い切ります」

また病院だから24時間看護師がそばにいるわけではない、という理解も必要という。患者は家でも病院でもどこにいても24時間フォローされるわけではない。ナースコールがあったとしても「痰が絡んで朝呼吸が止まる」という事態は病院でも起こり得ることを忘れてはならない。