2022年3月、長年在宅看取りを担う千場純医師(まちの診療所つるがおか)の訪問診療に同行した。がんや認知症などの疾患を抱えながら、家で過ごす方たちを取材したいと私(笹井恵里子)からお願いしたのだ。前回は「妻を介護する孤独な夫」を紹介した。今回は「妻の体調に興味を示さない夫」である。千場医師は「典型的な昭和のサラリーマン夫婦」と説明する――。(第12回)
「まちの診療所つるがおか」の外観
撮影=笹井恵里子
「まちの診療所つるがおか」の外観

「本人が認識しているよりずっと悪い病態」

ピンク色のカーディガンと頬紅がよく似合う、かわいらしい雰囲気の高齢女性が玄関まで出迎えてくれた。

肺をはじめさまざまな疾患を抱えているというが、ぱっと見はそれほど状態が悪いようには見えない。しかし事前に千場純医師から「本人が認識しているよりずっと悪く、呼吸不全も起き得る病態」だと聞いていた。もともと複数の疾患を抱える上、一時期は気胸(何らかの原因で肺から空気が漏れ、肺がつぶれてしまう病気)も患って緊急入院をしたが、今は退院し、再び家で暮らせているという。今日は3回目の訪問診療だった。