「オムツの交換」も看護師に任せられる

それではもう一つ、「オムツの交換」についてはどうだろう。例えばホームヘルパーや看護師が訪問し、オムツを交換してくれたとしても、彼らが家を出た直後に患者が便をしてしまったら? その時は家族がオムツ交換をしなければならない。取材でもそうした悩みを聞いたことがある。だがこれも「調整可能である」と山中医師。

「もともと疾患がある人は、便が数日に1回、1週間に1回ということが多いので、下剤を飲ませて便が出るようにします。たまってしまうと、それによって病状が悪化することがありますからね。けれども下剤の飲みすぎで便がゆるすぎる状態も問題でしょう。看護師が訪問した際に便を出すといった適切な排便コントロールを行えば、家族の負担が減るはずです」

たしかに変な話だが、便ではなく尿であれば、オムツ交換にそれほど抵抗がないかもしれない。

「仕事をやめて介護に専念する必要はまったくない」

コロナ第7波の真っただ中、「しろひげ在宅診療所」の訪問診療を密着取材した。

山中医師は家族に対して「がんばらなくていい。何もしなくていい」とよく声をかけていた。

家族から患者の様子を聞く山中医師
撮影=笹井恵里子
家族から患者の様子を聞く山中医師

「家族が介護に関わるな、という意味ではありません。関われるし、関わらなくてもいいという選択肢があることが大事。でも実際は『家族がやらなくてはならない』と感じるケースがあるのは知っています。それは介護の仕組みをちゃんと使えていないんです。ケアマネ(ケアマネジャー、介護支援専門員)や医師の問題でしょう。在宅医療を行う医療機関は、家族が患者さんに愛情だけを注げる環境を整備することが本来の仕事のはずです」

家族が仕事をしているなら、病院に預けているのと同じような感覚でこれまで通り仕事をしていい。「仕事をやめて介護に専念する必要はまったくない」と山中医師は続ける。

「そして在宅医が患者さんの最期を見極め、残り2週間から1カ月くらいのタイミングで介護休暇をとれるといいですよね。その最期の見極めも、医師の力量が問われます」

在宅診療所の選び方を間違えなければ、家族の負担はほとんどないのだから、もちろん独居でも問題ない。