「夜間はバイト医師」では救急搬送されてしまう

補足になるが、「訪問診療」と「往診」はその意味合いが異なり、「訪問診療」は定期的かつ計画的に医師が患者の自宅を訪問して診療すること、「往診」は急変時などの緊急事態に、患者や家族から依頼があった場合に訪問して診療することだ。

訪問診療は「在宅診療」を掲げているところであればやってくれるはずだが、問題は夜間を含め突発的に発生する「往診」のほうである。例えば医師が一人しかいない診療所で、日中は外来をしていて、空いた時間で訪問診療をするようなケースでは、夜間や緊急時に往診に行かず救急搬送をするだけというケースが少なくない。

また「24時間対応」といっても、いつもの医師が往診に行かなければ意味がない。

「患者さんの普段の様子を知らない医師が往診に行っても、困った時はすぐ救急搬送してしまうでしょう。それなのに日中と夜間を分離するスタイルの在宅診療所が増えているのです。特にトップの院長だけ正規職員として、そのほかはバイトドクターとするフランチャイズ型の医療機関では、夜間はバイトドクターが往診します。昼夜完全分業制にすれば、医師のワークライフバランスは保てるかもしれませんが、私はその患者さんを一人の医師が責任もって請け負う“主治医制”がいいと思います。せめて患者さんの情報を共有する、同じ診療所の医師が24時間365日診るべきです。当院ではおよそ13人のドクターが在籍し、一人あたり100人近くの患者さんの主治医という体制をとっています」(山中医師)

特に「夜間」は、患者や家族からのさまざまな訴えが押し寄せる。 

24時間365日患者からの相談を受け付けているか

山中医師の携帯の着信履歴を見せてもらうと、患者からのコールがずらりと並ぶ。不安、眠れないなどという本人の訴え、幻覚や幻聴のような症状への苦しみ……。

「こういった夜間の不穏によって家族が疲弊し、介護が大変になる人が、実はものすごく多い。特にがんの末期や難病の方は体の痛みや苦しみだけでなく、不安感や焦燥感をよく訴えます。けれども夜勤だけ担当するような医師は『専門ではありません』と拒否してしまう。当院では全員精神科について勉強をし、心の面のフォローもします。ドクターが電話で10分20分話を聞くだけで、みなさんずいぶん落ち着くんですよ。患者さんの訴えをこちらが全て受けることで、同居する方だけでなく離れて暮らすご家族も、本人からの連絡が減ってラクになったと言うくらいなんです」

在宅介護の大変さは、本人が病院にいる時は言わないことを親しい家族には言ってしまい、家族も「ずっと診なければいけない」というプレッシャーとともに負担感が増してしまうことなのだ。私が家での看取りを経験した家族に取材した際も、多くの人は生活や仕事の時間を削って介護を背負っていたし、「緊急時に医師が来てくれない」と嘆く人ばかりだった。

だから、在宅診療所を選ぶ条件として先に挙げたように、24時間365日患者からの相談を受け付けること。場合によっては緊急的に往診をしてくれること。そしてもう一つは、「病気を選ばない」ことだ。