先月、香川県善通寺市のスーパーの女子トイレに自衛官が侵入し、個室の下からスマートフォンを差し向け、盗撮しようとして逮捕された。京都市の飲食店でも、警察官が女子トイレに侵入し、個室の上からスマートフォンで盗撮したとして逮捕された。長野県諏訪市では1月、公衆トイレの女子トイレ内に高校生が侵入し、わいせつな行為をしようとして逮捕された。
なぜこうもトイレで犯罪が頻発するのか。
それは、日本のトイレが構造上、世界の中で最も犯罪が起きる確率が高いからである。なお、これはあくまでも「構造上」の評価なので誤解のないように願いたい。
日本のトイレが世界一危険だとする理由は、トイレの設計が場所の犯罪誘発性に注目する「犯罪機会論」に依拠していないからだ。対照的に海外のトイレの設計には、防犯対策のグローバル・スタンダードである「犯罪機会論」がしっかり盛り込まれている。
「犯罪機会論」が重視するのは、領域性(入りにくさ)と監視性(見えやすさ)である。言い換えれば、場所で守る「ゾーン・ディフェンス」であり、それによって、無理なく、無駄なく、むらなく犯罪機会を減らすことができる。
しかし、日本の取り組みは防犯ブザーや護身術などに偏っている。これは個人で防ぐ「マンツーマン・ディフェンス」である。したがって格差やばらつきが生じやすい。
こうして、日本では危険な「入りやすく見えにくい場所」が放置され、安全な「入りにくく見えやすい場所」に変えていく努力が行われていないのだ。
監視カメラは10台設置されていたが…
例えば、熊本女児殺害事件(2011年)の殺害現場となったスーパーのトイレも「入りやすく見えにくい場所」だった。
まず、性被害に遭いやすい女性のトイレは、手前にあるので「入りやすい場所」だ。次に、トイレの入り口は壁が邪魔をして、買い物客や従業員の視線が届きにくい「見えにくい場所」である。もちろん、犯人が女児と一緒に入った「だれでもトイレ」も「見えにくい場所」だ。
そこでわいせつ行為を犯していた犯人は、トイレの外から女児を捜す声が聞こえ、ドアをノックされたのでパニックに陥り、女児の口をふさぎ窒息死させた。
なお、スーパーには監視カメラが10台設置されていたが、それでも「見えやすい場所」にはならなかった。なぜなら、監視カメラが怖いのは、犯行が発覚するかもしれないとビクビクしている犯罪者だけだからだ。
この事件の犯人は、監視カメラがある店で4時間もの間、堂々と女児を物色していた。この事実から、犯人が犯行は発覚しないと思っていたことが推測される。